言語心理学
言語心理学とはどのような学問か
psycholinguistics心理言語学
(1)言語と言語行為
language……社会的に用意された記号体系
speech……記号(言語)を用いられて行われた行動、言語行為
↓
これをはじめて対置したのが、Saussurソシュール(1857〜1913)「言語学原論」
parole 言(speech) → 言語学の対象ではないと主張
langue 言語(language)
language 言語活動(言語的人間の活動)
(2)言語心理学の領域
(a)F.カインツKainzの分類
(一)一般言語心理学(基礎言語心理学)
健常な近代的な社会の成人の言語行動や言語
活動の特質の分析
(二)比較言語心理学
子供の言語活動、原始的民族、開発途上の民族の場合の言語行為、病的な(健常ではない)患者、発達障害を持つ子供、動物の言語(コミュニケーション)
(三)応用言語心理学
性格診断、裁判心理学、言語治療、言語教育、コミュニケーション活動
(四)特殊言語心理学
文章心理学、作家の作品に表れた言語的人格の分析
(b)C.E.オスグットOsgood
(一)通時言語心理学diachronic
言語の発生や発達は時代によって変化
(二)共時言語心理学synchronic
一定の期間中の個人、集団の言語、言語行為
(三)連鎖言語心理学seguential
言語の産出過程production
(3)言語心理学の課題
(1)言語過程そのものを明らかにすること
(a)言語の産出過程
音、語、文、文章のencording process符号化
(b)言語の受容過程
音、語、文、文章のdecording process解読過程
(2)言語活動の構造とその諸過程
作文、読書、演説、理解
(3)言語の発生と発達
(一)系統発生的
(二)個体発生的発達
(4)人々の言語生活
言語活動 社会言語学
言語体系と言語行動
日本語の言語体系における待遇表現(敬語)
(5)言語教育と教授法
(6)認識と言語(認識の中で働く言語の役割を明らかにする)
(7)言語病理学
失語症、言語障害(神経心理学)
異常や障害を明らかにすることによって、文の産出プロセスを明らかにするのに貢献
(8)言語工学
(9)言語人格、文章心理学
第一章
シンボル シンボル機能の発達
語を獲得するためには、シンボル機能を獲得していることが前提である。では、シンボルやシンボル機能とは何だろうか。
第一節
シンボルには、以下の三つの機能が含まれている。
・信号(signal)
・標式(index)
・シンボル(symbol)
予知、予報機能を持っている
三歳の子供が言語教示にしたがって振舞うことと、犬が言語教示にしたがって振舞うことは、同じことなのか、異なることなのか?
三歳の子供は、母国語の単文レベルの構文をかなり作り(複文は使用しない)、使用できる。人間の子供の場合は、言葉の意味を理解し、媒介して(シンボルを媒介して)行動している。つまり、刺激はシンボルとして機能している。
犬の場合は、表現としては言語的表現であるが、そのことによって犬はその後の意味がわかるわけではなく、むしろそのような音刺激に対する反射、あるいは運動化反応としてある一定の行動が引き起こされているにすぎない。犬の場合は、言語的信号(条件反射的用語)として、機能している。
シンボルとは、どのような構造を持っているのか。
無縁関係
言語的な音形式と実際の物体の間の関係は、必然的な関係がそもそも存在しないこと。
→では、どうしてリンゴ≠リンゴとして認識できるのか。
→意味を媒介している
リンゴという音によって、意味を支える様々なイメージや諸特性が喚起される。
シンボルが、ある対象を代表する
F. de Saussure
Ozder, C. K.
Rechards, I. E.
「意味の意味」
標式とは何だろうか
まず、能記と所記は分離されている(音と意味は本来的に独立である)。
標式とは、知覚の基礎となっている。
知覚perception……一定のカテゴリーや意味判断を伴う
感覚sensation……
対象を知覚することにおいて、我々はごく一部の重要な特徴を手がかりとして判断を行っているのであり、すべての情報を処理しているわけではない。識別特性を利用して、判断している。
第二節 シンボル機能の発生と発達
シンボルと表象との関連
表象……現実に目の前にものがなくても、そのイメージを喚起できる。
この表象ができなければ、シンボル化機能自体が機能しない。
※ピアジェにおいて、シンボル機能の発生は、イコール表象の発生であった。
(1)表象やシンボル機能の発生に関与している要因とは?
1.対象的行為……ものに働きかける行為全体。objective
action。
道具的行為……機能に即した道具を使う行為。
→どうしてこれが表象の形成に重要なのか
→特徴や性質を知るためには、使ったり、眺めたり、触ったりすることが必要だから。
↓
発達には一定の順序がある。
生後2ヶ月 人の場合、はしゃぎ反応があり、ものではない(人と物の弁別)
生後4ヶ月 手探り運動
生後5ヶ月 座ることができるようになる(手が自由になる)
把握行為の発生(視覚・運動協応)
生後7ヶ月 マニブレーション(口の中に入れる)の発生(物を知りはじめる)
味覚は鈍感
生後11ヶ月 大人のマネをし始める
道具的・機能的行為が発生し始める
↓
表象の形成に関与していることは間違いない。しかし、
→道具を使うだけでは表象は形成されない
2.身振り(ジェスチャー)
→シンボル的なジェスチャーとして展開(電話を使う“フリ”など)
3.対象指示行為(指差し行為、pointing)
把握行為 → 指示行為
↑
解釈して意味付けを与える
対人においては、自分の注意を方向付けるということになる
4.模倣
・同時模倣、直後模倣…見本が提示されてから再生するまで、時間的なずれがない。保持の必要がない模倣。特別に表象の必要がない。
・延滞模倣、遅延模倣…delayed imitation。見本の提示があってから、再生までの間で時間的なずれがある。行為の見本について、何らかの表象の発生が必要。
(2)J・ピアジェの考え方
表象の発生=表象の発達
個人的シンボルの発達
1.延滞模倣、遅延模倣、delayed imitation
2.シンボル遊び、象徴的遊び、symbolic play
ままごと(小石や木の葉を使いながら、あたかもアメや皿を使っているように遊ぶという、明らかなる表象の発生)
3.線画、描画
4.心像
↓
個人的シンボルの社会化
↓
社会的シンボルの発達
言語、語
模倣から表象の発達を説明しようとするときに、一つのトートロジーが起こった。
→模倣から表象にアプローチしようとしたが、模倣が行われるためには表象が必要である。
補節
J.ピアジェの感覚運動的段階
第一期(出生〜生後一ヶ月)、新生児期
生得的な反射(原始反射)の使用とその中でのシェマの形成
モロー反射Moro reflex……支えを失うと、両四肢を上に上げてつかむように動く。驚愕反射。
吸飲反射Sucking reflex……口に指や乳首を入れると、それを吸う。
口唇探索反射Rooting reflex……何かが触れると、その方向に口を持っていく。
把握反射Grasping reflex……親指を中に入れてそれをつかむ反射。
自動歩行反射Steppingreflex……足踏み反射。
第二期(一〜四ヶ月)
原始的習慣(第一次循環反応の形成)
指しゃぶり
喃語……前言語期における自然な発生(音の遊び)
生後二ヶ月目
ものと人の識別、おはしゃぎ反応、情動的レベルのコミュニケーション欲求の発生(対人関係の成立)
第三期(生後四ヶ月〜十ヶ月)
(1)視覚と運動の協応が成立し、物を把握することができる
(2)第二次循環反応の成立
行った行為の結果に関心を持って、同じ行為を反復する。
例;がらがら
第四期(生後八〜十三ヶ月)
(1)手段と目標の分化と道具的使用
指差しの生起。
(2)物の概念、永続性permanenceの成立
物体がオクルージョンしていても、それが同じ物でありつづけるとわかる。
(3)標式の発達
空間的標式
時間的標式
第五期(生後十一ヶ月〜十八ヶ月)
第三次循環反応、能動的実験の段階
手段と目的の関係が理解される。また、手段をいろいろ分化させて行為の結果に興味を持ち、いろいろな新しい手段をもった行為を反復する。
例.マリを転がす。テーブルの上のものを落下させる。
第六期(十八ヶ月〜二十四ヶ月)
表象の発生、シンボル機能の発生
実際の語の獲得の始まる時期は満一歳であり、一歳代の前半は、シンボル機能が未形成の段階で語の獲得が行われていく。
(3)M・M・コリツォーワの考え方
(a)言語的信号の形成と成立
言語的信号の形成のプロセスを、条件反射の立場から明らかにしていった。
※複合刺激
複数のモダリティからなる刺激
生後7,8ヶ月のとき
(a)母親の腕に抱かれている条件で
(b)寝室で、母親が
(c)質問イントネーションで「パパどこ?」
という条件付けを成立させると、父親のほうを向くようになった。しかし、この段階ではまだ語と結びついているわけではない。
↓
10-12ヶ月で、初めて複数のモダリティからなる刺激として言語が形成されているのではなく、言語を理解されている段階になる。
コリツォーワの仮説
イメージの形成がシンボル機能の形成である。
パブロフにおいて、シンボルは「信号の信号である」
言語(刺激)・・・・第二次信号系、高次信号系
↓
(1)像は感性間結合である。
(2)感覚連合野における一般化の形成は、運動投射野における一般化を基礎にして行われる。
→各連合野において、神経間の機能的な構造が形成されるのではないか
→ローランド溝をはさんで、右側に体性感覚野、左側に運動投射野
(a) | (b) | (c) | |||
平衡運動成分 | 視覚成分 | 聴覚成分 | |||
幼児の姿勢 | 外的環境 | 話し手 | イントネーション | 語 | |
7〜8ヶ月 | + | + | + | + | − |
8・1/2〜9・1/2 | − | + | + | + | − |
9〜10ヶ月 | − | − | + | + | − |
9〜10・1/2 | − | − | − | + | − |
10〜12ヶ月 | − | − | − | − | + |
(b)シンボルの形成
問題
シンボル形成において、各分析器(視覚、運動)の関与は同じなのか、それともどちらかがより重要なのであろうか
コリツォーワの実験
被験児は、一歳七ヶ月の幼児。五試行ごとに学習テストを行う。
第一群の本を含めて、五冊の本のほかに、様々な道具などが置かれてあるテーブルの前に行って、「本を持っていらっしゃい」という指示を行わせる。
↓
T群はまず無理
制限する分析器 | 学習の方法 | |
第一群 | 視覚・運動分析器 | /ホン/という語で、1冊の同じ色、形のホンに対して、1種類の行為を行わせる。 |
第二群 | 視覚分析器 | /ホン/という語で、1冊の同じ色、形のホンに対して、20種類の行為を行わせる。 |
第三群 | 運動分析器 | /ホン/という語で、20冊の色、形の異なる本に対して、1種類の行為を行わせる。 |
ピアジェは、模倣の重要性を強調したが、コリツォーワは対象的行為や具体的行為(運動的行為)の重要性を強調
(4)A・ワロンの考え方
ワロン著「認識過程の心理学」滝沢武久訳、大月書店
J・ピアジェの個人的シンボルから社会的シンボルが発生するという考えに反対する。完全に個人的な運動などから、社会的シンボルは発生してこないと主張した。
(1)表象の形成における模倣の役割を重視するが、個人的模倣ではなく社会的な模倣、特に儀式を重視する。「儀式とは、「伝統的に与えられ、宗教によって様式化された模倣、または模擬である」
例1. トーテム的先祖の模倣
自分の先祖と思い、敬う動物の仮面や服装をして舞踏したり、その行動の日常的行動をまねる。
例2. 望ましい場面やその状況の模倣
干ばつを終わらせ、雨が降ることを願って、カエルがゲロゲロ鳴いたりアヒルが羽ばたいたり鳴き声の真似をする。また、収穫がほしいとき、背中をかがめてゆっくり歩く仕草をする。これらの形象化の場合、表象は単に事物をあらわすだけではなく、欲求や意図を表す。
子供の場合の例
(1)宗教的場面での合掌、十字を切る等のお参り。
(2)宗教的ダンス(日本の場合、盆踊り)
(3)動物の鳴き声や行動の模倣
(2)信号、標式、模擬、表象、記号
模擬
原始人の行動において、悪いことを遠ざける手段として、予め自分自身で実行してみて、それを避けようとする。
例1.
敵につかまり、拷問にかけられた夢を見て、翌日、友人に自分の体を縛って傷をつけるように頼む。
例2.
自分の家が火事になった夢を見て、翌日、自分の家に火をつける。しかし、家は燃やさない。
例3.
雨が降りすぎるのをやめさせるために、熱い石の上に雨の滴をたらす。
このように、模擬は一定の意図や願望を持って、具体的に模倣する行為であるが、実際的な対象的行為ではない。
子供の場合の例
(1)水が飲みたくて空のコップから水を飲んだフリをする。
(2)親に叱られて、自分の手で自分を叩く行為
(3)人形に帽子をかぶせる
第二章 語彙・意味論面の発達
第一節 語彙量の変化
臨界期が存在するとはいえ、個人差が大きいため、断定することは危険である。初期の段階の変化については、様々な研究がなされている。
レオンチェフは、一歳半ぐらいまで、語彙の増大が停滞することを指摘しており、その時期は音韻面において発達しているとした(子供の語彙は、10程度にとどまっている←シンボル機能の発達が未発達)。
シュテルンは、一歳半の時期には、子供が、物には名前があるという「偉大な発見」をすることを指摘。
以下の語の扱いが研究者によって見解の分かれる部分
消失語
幼児語が成人語に変化する語の扱い
第二節
幼児の初期の言葉の原始的性格
(一)対象表示機能が不完全・未発達
車をブーブーという。
→音を出して走っていれば、自転車もブーブーになるであろう。
(二)シンボル機能の未発達
→シンボル機能ではなく、標式としての語であり、語が対象の持つ際立った特性と結びついている。
→車の場合、ブーブーという感覚的に目立った音の特性と結びついている。
→対象の表示が不完全。
(三)generalization一般化の水準が低い
(四)音韻構造が単純であり、特に同音反復が多い。発音しやすい音節。
例. ブーブー、ニャンニャン
(五)共実践的性格co-practical
語は単独では機能せず、実際的な行為、状況、身振りなど、非言語的要素と結びついて機能する。
この性格は、幼児期または小学校期まで、保持される。
第三節
一般化の構造の発達
複合的一般化・・・・事実的結合あるいは具体的結合。なんらかの事実的つながりがあるもの。小学校低学年ぐらいまで機能。
概念的一般化・・・・共通している特性。具体的なものから、特質、特徴を抽出し、抽象化する能力。
↓
(1)ヴィゴツキー・サハロフの研究(「思考と言語」上、概念形成)
資料p180
色、形、大きさ、高さの異なる積み木22個
一般化の構造の発達の三段階p.217
(1)混合心性的段階
知覚によって指示された主観的印象に基づいて統合させる。客観的な対象的関係が存在しない。
(2)複合的段階
共通している特徴ではなく、具体的事実的特徴で結びつける。
(@)連合的複合
具体的に関連するものを結びつける。
(A)コレクション的複合
相補的な関係にあるセットを選ぶ。
(B)連鎖的複合
(C)拡散的複合
(D)擬概念的複合
一般化の方法は複合であるが、指し示す指示物は大人の使用範囲と変わらなくなる。概念的段階のように、グループ化の理由付けを言語化できる。
(3)概念的段階
対象の持っている共通の特徴を基礎として、事物をまとめることができる。
(@)前概念的段階
抽象はあくまでも、具体の中にとどまる。したがって、事実的、具体的、偶然的な特徴の関係を反映する。
(A)概念的段階(科学的概念)
本質的特徴関係が抽象され、個々の事物、抽象が、その一般と特殊の関係が一般化され、結合される。
第一節 一語文期(満一歳〜一歳半後半)
この時期のコミュニケーションは、行為やジェスチャーによって、あるいは母親がそれをうまく読み取ることにより、意思の疎通が成り立っている。
要求文、命令文、呼びかけ文、指示文が頻繁に現れる。
一語文期から文
(1)一語文期
(2)前文法的段階
(3)初期文法期
(T)主述関係
(U)動詞句
(V)名詞+名詞
(W)修飾語+名詞
など
(4)単文の形成期(一歳−二歳)
疑問詞 統語的意味論、カテゴリー
だれが Agent(行為者、動作者)
だれに Beneficiency(受けて、益者、相手)
だれを Patient
いつ Time
どこで、どこに palce direction
どうしたの How
何を Object
第二節
精神発達遅滞児に対する動詞述語構文の形成教育プログラムの開発
MR児 Mentally Retarded Children
天野清著『幼児の文法能力』国立国語研究所報告,東京書籍KK刊
3歳になれば、短文期に入っていくつかの語を組み合わせた正しい母国語の構文を話すことができるが,6歳のIQ50の発達遅滞児は、多くは一語文期にとどまっている。さらに高学年においても、なお一語文期にとどまっている場合があり、構文の習得が発達上大きな壁となっている。
(1)目的
基礎的な構文の産出、理解能力を一定の教育手続きで計画的に形成できるプログラムを開発する。
(2)対象児
一語文後期段階にあるMR児
(3)理論的基礎
(一)文法産出メカニズムの話題(R.ヤコブソン、A.R.ルリヤ)
「パラディグマ的要素の選択とそのシンタグマ的結合」
Agent-Object-Actionを時系列的に結合している。それは言語の産出メカニズムの最も基礎的な部分である。※プリント参照
(二)内的線形図式
力動的失語症の患者の研究の中で見出した、一種の内言の機能
世界に同時構造的に展開している絵やイメージ的に思い浮かべられている事象を、コードコンバーターを通して、同時構造を線形的な構造におきかえることによって、文によって表現できる。内的線形図式。
(三)内面化
ペー・ヤー・ガリペリンの多段階形成理論
(1)準備的段階
(2)対象的行為の形成
(3)外言の形成
(4)つぶやきの形成
(5)内言の段階
第一ステップ 対象的行為の形成と一般化
@文の産出メカニズムを物的な行為として学習させる。
「絵の行為の内容を、人形、ものを操作して表示する」
A動詞(行為)の一般化
Bシンボル機能の発達の促進、見立て行為
一回の訓練
@模倣・学習
A自力学習
B再学習
第二ステップ 運動図式を基礎にした文の産出
@文の産出メカニズムの言語平面の以降
つまり、指差し+指差し+ジェスチャーを基礎にした文の産出
指差し−対象の自覚、自分の注意の方向付け
身振り→発語の意味論に支持する。
第四章 内言の諸問題
内言(internal speech/inner speech→外言external speech)とは、いわゆるコミュニケーションと目的とせず、第三者から観察できない頭の中で行われる言語行為。
第一部 J・ピアジェの自己中心的言語
自己中心語言語egocentrism speech
A社会的言語(コミュニケーション機能を果たす言葉)
説明、質問、答え、批判、要求、催促など
B非社会的言語
反復、模倣、独語、集団的独語
社会が十分発達していないために、このような発話が生じる。
ハンスの場合の係数(ロイチンガー・シュラーの研究)
大人の面前で
3:1 3:6 4:0〜4:1 | |
係数 | 71.2 50.3 43.6 |
子供同士の場合
3:4 3:8 3:11〜4:4 | |
係数 | 56.2 43.2 46.0 |
社会化
個人的 → 社会的
J・ピアジェ『臨床児童心理学』大伴茂訳,同文書院,1955年.
第二節
ヴィゴツキーのJ・ピアジェの自己中心的言語の解釈に対する批判
→3歳から6歳に現れてくる子供の独り言(自己中心的言語)こそ、内言から外言が分かれるある過渡期の現象である(←ピアジェ=メンタリティや知性が現れているのであり、社会化が未発達であるために起こるもの)。
→機能的には内言であるけれども、形式的には外言の形を保持している。
→自己中心言語は、実際は、ものを考えたり、推測したりするための、内言的な独自の機能を持っている。
ヴィゴツキー・レヴィナの実験
幼児期(3〜6歳)の幼児に、
(1)ケーラーと同じような状況(目標物、家具を与える)で、問題解決場面を設定する。
(2)句や文を記憶するために描画をさせる課題
(3)絵とトレース用紙を与えて、模写することを求め、その直面に固定していたピンを取ってしまう。
問題解決と子供の発話(独語)との関係には、以下の四段階があることが認められた。
(1)発話は何ら行為の改善に結びつかない。しかし、解決方法の探索、自分の経験の蓄積の役割を果たす。
(2)記憶すべき句にあった何らかの特徴をまず描写し、次に行ったことをコトバで表す。発話は随伴的なものでなく、自分の行為を結論付けたり、総括する性格をもつ。例えば、「女の子が聞いている」という文を記憶する課題に対して、まず、ラジオのイヤホンを耳にあてている絵を書いて、次に「ラジオ−耳」を発話する
(3)まず発話で、対象の特徴を分析し、次にそれに絵を描く。
(4)もはや、対象の特徴をコトバで表現せず、だまって絵を描く。行為の計画は外に現れない内言の形をとる。
ピアジェ 自己中心言語は、発達にしたがってなくなる。
ヴィゴツキー 自己中心言語は、真の内言になり、観察されなくなる。
第三節
ヴィゴツキーによる内言の特徴の分析
・ピアジェは自己中心性言語を、他者を理解していないために現れるものであり、そのため、社会性が増すにつれ解消されていくと解釈した。
・一方ヴィゴツキーは、自己中心性言語は外言から内言が分化していく過渡期のプロセスであり、そのため自己中心性言語は、外言の形をとりつつも内言の機能を果たしていると解釈した。
→自己中心性言語がどのような変化をたどって行くのかを追跡的にたどって行くことにより、内言の持つ機能を研究しようとした。
「思考と言語」参照
(1)発生的特徴
外言から分出して発生する。
→実験的に内言を引き出そうとすると困難が伴う。
課題が簡単すぎても難しすぎても内言が出にくくなる。8
知らない人と組ませると内言が出にくくなる。
(2)音声的特徴。
音声化されない
(3)意味論的特徴
センス(sense)が意味(meaning)より支配的である。
(4)統辞論的特徴
@述語主義が中心となっている。
A語と語が膠着的結合
屈折−語尾変化をしながら活用
膠着−語と語の直接的結合
(5)コミュニケーション的特徴
外化を予想しないので第三者には分からない。慣用句化している。
(6)文の階層的産出モデルを提起した
動機 → 思想の形成 → 内言 → 意味的平面 → 統辞的構造化と外言の意味 → 音声化 → 文
※当時は、ある完成された思想があって、それを単に言語的に外に表せば文になると考えられていた。それに対しヴィゴツキーは、実際は内言が介在し、あれこれと思想を作り上げて行くことを主張した。コード化されていない思想を、文を作り出す中で、内言を通して完成するのである。媒介物として内言を想定していることが、ひとつの大きな特徴である。
第四部
A・R・ルリヤの失語症研究における内言問題の発展
(1)A・R・ルリヤの観点
(a)ヴィゴツキー学派
社会的にその起源を持つ特殊な機能系−言語、思考、随意運動、意識が、大脳皮質においてそのように分布しているのかを分析し、皮質の各ゾーンがこれらの機能系にどのように関与しているのかなどを研究する。
新しい命題
(1)人間のあらゆる活動は機能系である(古い局在論に反対する)
(2)人間の活動の起源は社会的・歴史的であり、その構造は社会的なものである。
「社会の歴史は、人間の大脳皮質の一定の所ゾーンに新しい相互結合の結び目を作る。だから、もし音韻コードを持つ言語の使用が皮質の側頭野と運動感覚野との間の新しい関係を作るとするならば、それは脳外の結合を基礎にし、かつ大脳皮質に新しい器官(A,A,レオンチェフ)を形成する歴史的発展の産物である」(ルリヤ「人間の脳と心理諸過程」金子書房,P.76)
(4)高次心理諸機能の局在は、時間発生的なもの、つまり高次心理諸機能の局在は発達の産物である。
(b)大脳に三つの機能的ブロックがある
人間の諸活動を保証し、かつ独自の役割を果たす三つのブロック
・エネルギーブロック
皮質が他の二つの機能を果たすことができるのに必要不可欠な皮質のトーヌス(興奮)を維持するブロック
大脳、脳幹上部(視床下部、視床、前結部、旧皮質、大脳辺縁系)
・外界からの情報を取得し、処理し、保持するブロック
大脳後頭部−側頭葉、頭頂葉、後頭葉
・行為のプログラムを作ったり、その現実化を保証したり、制御とコントロールに参与するブロック
(2)ルリヤの失語症類型
能動的発話の障害
(A)シンタグマ的組織化の障害
(一)大脳の深部部位の損傷(病変)による障害
(ニ)前頭葉の損傷(病変)による障害
(三)力動的失語症のシンドロームを持つ障害(超皮質型失語のこと)
(四)発後の叙述的構造の障害(電文体)
(五)遠心性運動失語症(Broca失語のこと)
(B)パラディグマ的組織的の障害
(一)求心性運動失語症
(ニ)感覚性失語症(Wernicke失語のこと)
(三)聴覚・記憶失語症
(四)前頭側頭シンドロームを持つ障害
(五)意味論的失語症
1. 大脳深部部位(脳幹)の損傷・病変 → エネルギー・ブロック
(言語的)コミュニケーションに必要なコード化・脱コード化の過程そのものは障害を受けない。この場合の言語障害は、以下の2つの原因から生じる。
(1)皮質のトーヌスの低下・不活性・活動全体が低下。非特異的な緘黙。
(2)言語運動期間(代表部のトーヌスの低下)
2. 前頭葉の損傷・病変(人間的な心の働きをつかさどる:動機付けなど)
(1)人間に特有な動機の崩壊
特に両側性の損傷・病変を受けた場合、能動的活動に重度な障害を受ける。
@反響語
A紋きり的な表現・行為の反復
・言語活動について
(1)自分から積極的に話しかけることはない(発動性の低下)
(2)相手の質問に対して反響的に反復
(3)語の反復テスト
2〜3語ならば、1系列の語や対象の名前をいうことが可能。
↓
紋きり的な反応
(4)複雑な言語活動は不可
(2)行為の調整やプログラム化(プラン)の障害
脳が全体的に興奮して(脱制止)、プログラムに含まれていない無関係な行動や行為の断片に流れてしまう。
(3)筋のある展開された発話の構成、理解が困難
(4)内言の中枢として機能しなくなる
三 力動的失語症dynamic aphasia(1)
損傷部位:左半球前頭領域下部(左言語領域の前部領域)
(1)構音は正常
(2)対象やその系列の名前も言える
(3)前前頭部の損傷に特徴的な固執性や無秩序な想起の現象はない
(4)絵で見たものまたは自分の経験を筋を立てて展開して表現することが困難である。
(5)失文法症(電文体)を伴わない
(6)回復過程でも電文体の過程を通らない
(7)言語過程のうちどの環が障害を受けたのか?
→最初の思考(発話意図)を継時的な構造の基礎にある連語的図式にコード変換できない。つまり、ヴィゴツキーが指摘した内言の機能が障害を受けている。
四 力動的失語症(2)
文の述語構造の障害(電文体)
(1)左半球前頭野の下部領域の障害
(2)運動メロディーの障害(運動機能でもメロディーの障害がある)
(3)言語面 失文法的表現(電文体)
「少年がイヌを叩いた」 → 「少年 イヌ
たたく」
(4)個々の対象、行為性、質などを語で表示できても、それらを一つの筋のある文に統一することができない。動詞の補助語(格)が脱落し、文の名義的要素の羅列に終わる。
五 遠心性運動失語症efferent motor
aphasia
ブローカーの失語症
(1)左半球下前頭回後部3分の1(ブローカー・ゾーン)
(2)個々の音素は自由に構音し、姿勢失行と結びついた困難さは認められない。
(3)一つの音素から他の音素へ速く切り替えて音連鎖を構成することが困難で、同じ音素の反復となる。
(4)運動メロディの障害:流暢な構音が障害されている。
(5)回復過程で「電文体」の段階を経て経過する。
六 求心性運動失語症afferent motor
aphasia
(1)左半球の言語ゾーンの後中心領域の損傷及び病変
(2)運動メロディの崩壊は認められず、あれこれの音(素)の発音に必要な構音を探し出すことが困難。言語運動器官の失行。対立している音素が混同しやすい。
(3)言語行為のリズム構造や統辞は保持されている。
(4)回復過程で、「電文体」の段階を経ない。
七 意味論的失語症semantic aphasia
(1)左半球の頭頂・後頭・側頭皮質領域(オーバーラップ・ゾーン)。第三次ゾーンの損傷及び病変。
(2)この部位の損傷及び病変は、視覚第二ゾーンを侵すため、視覚的分析・統合の困難を示す→視覚失認症。
(3)継時的に入ってくる情報の同時的総合が困難。
(4)「関係のコミュニケーション」が困難である。
→経験のコミュニケーションと関係のコミュニケーションがある。
例:「ソクラテスは人間である」のタイプの文の理解が困難。
(5)対象の命名困難(名義的機能の障害)
(6)同時的構造を持つ操作を必要とする課題
例:
八 聴覚記憶失語症
(1)左半球の側頭の中側頭回の損傷及び病変
(2)語の音韻的構造は保持されるが、ごの言語・聴覚痕跡が系列を安定して保持できない。したがって、語を音声的に提示してから休止または無関刺激を提示すると、その語の音連鎖を再生することが困難。
(3)原因は、言語聴覚記憶力の低下。
(4)対象の命名困難、他の名前を挙げる。
(5)話を聴かせると反復できないが、物語の全体的意味は理解できる。統辞的・文法的構造は保持している。
九 感覚失語症sensory aphasia
聴覚・認知失語症、ウェルニッケ失語症
(1)左半球上側頭回後部3分の1(ウェルニッケの中枢)
(2)音韻聴覚の障害。音韻的に類似している音を聴覚的に識別することが困難。
(3)「語の意味の没収」。一つの語を聞いたとき、様々な類似した語の意味が同じ確立で浮かび上がり、その意味が特定できない。
(4)イントネーション、音調的構造は保持されている。
十 前頭・側頭シンドロームを持つ障害
(1)前頭葉と左側頭言語ゾーンに損傷、病変を受けた場合
(2)聴覚・記憶失語症と前頭葉損傷による無気力症の両方のシンドロームが結合して現れる。
(3)@語の選択の障害
A誤りの無自覚
B言語錯誤、無気力な惰性的ステレオタイプが修正されない。
前頭・側頭シンドロームと名づけられている。
(3)ルリヤにおける言語発話の産出と内言
(A.R.ルリヤ(天野清訳)「言語と意識」金子書房)
・第一の環
発話の動機
(1)マンドmand←demand
(2)タクトtact←contact
(3)セプトcept←concept
↓
自分自身の考えをより鮮明にしたいという欲求
言語行為の種類によって、動機の環が欠落している場合がある。
(1)対話の場合
質問に対する応答は、必ずしも動機の環を必要としない。
「あなたは頭が痛いのか?」
「はい、痛い」
↑反響的応答(エコーラ)
前頭葉を広範囲に損傷を受けた患者でも、そのレベルで答えることができる。
より複雑な対話の場合
例えば、
「こんばんは、君は何をするつもりかね?」
「夕食取ってから、少し勉強してから、友達のところへ行くよ」
このような場合、前頭葉損傷患者は、著しく障害を受けて発話は困難である。
したがって、これら二種の発話は大脳での線維化が異なっていると考えられる。
(2)口頭発話の場合
自発的な動機と自発的な発話意図があり、それが十分安定していることが必要である。
前頭葉損傷患者は、この種の発話はまったく困難。
・第二の環
発話の内的意図(思想、intention, thought)
(1)発話の一般的(全体的)・主観的意味が形成される。
(2)発話の出発点となる内的意図は、必ず二つの構成成分、つまり、
(i)テーマ・・・・何を問題にしようとしているのか、何について話をしようとしているのか(トピック)
(ii)レーマ・・・・その対象(テーマ)についてまさに述べようとしていること(コメント)
(3)これらの結合は、一種の同時的意味図式、または意味論図式の形式で現れる。この図式は発話の諸要素とその諸要素環のベクトルは、結合のグループからなる。
(発話の同時式図式semantic set)
・第三の環
内言
文の内的線形図式
動機
↓
内的意図(思想) → 内言(1) → 深層構造
↓
内言(2)
↓
音声的現実化
↓
思想の形成
↓
統辞的に展開
第四節
ペーヤー・ガリペリンの知的行為の形成理論の中での内言の問題の発展
真の意味の内言
(1)ガリペリンの知的行為形成理論
他段階的形成理論
(a)学習の動機付けの段階
(1)準備的段階(定位的基礎の形成)
(2)外的・対象的行為の形成の段階
(3)外言の 々
(4)つぶやきの 々
(5)内言の 々
第六節 N.I.ジンキンの妨害法による内言の研究
「音声メカニズムの研究」1958年。
リズム打ちが思考活動を妨害させることを論証
予備テスト
リズム打ちをさせながら、
(1)罫線を数える課題
(2)テキストの読み課題
を論証した。
本実験
@思考が頭の中で内言を用いて行われている時、自然言語コードで行われているのか否か?
分析の支点
(1)リズム打ちの正確さ
(2)
(3)
図形の系列の記憶再生課題
○ + ‖ ∞ │ を覚えさせて系列提示する。
5種の図形を光スリットの形式でランダムな順序で提示し、後に再生を求めた。
最初の段階
リズムは妨害効果を示し、「実験健忘症」の症状を示した。リズム打ち群は、2,3の図形を再生するにとどまった「統制数5〜6図形」
2,3回実験を反復すると、「実験健忘症」は消失し、統制群と同じように5〜6図形を再生できるようになった。
実験者は、被験者に内省報告を求める。
@│→モミの木
+→モミの木に十字を立てる
というように、図形の系列を意味あるイメージの系列に置き換えて記憶再生する
↓
対象図式コード
A‖→Eを2回見る
∞→Aを2回見る
+→頭で十字を切る
↓
運動図式コード
シンボル(三角形の図を書く)
イメージ、意味
リンゴ リンゴの図
能記