10月16日

 閉塞性の脳血管発作
・脳梗塞cerebral infanction……血管がつまって血流がとまり、細胞が死んでこわれる。原因を念頭においた表現=脳軟化encephalomalacia……死ぬと細胞膜が破れて水が出て、脳がどろどろになった状態。結果の表現
 原因二通り
脳血栓cerebral thrombois……血管内で血液が固まったもの。
   動脈硬化……動脈が固くなって弾力がなくなり、割れやすくなる←動脈壁にコレステロールなどがつき、かゆ状効果と呼ばれる状態になる。漸進性(段々と機能低下が現れる)副側血行により、保管される事もある。高齢者に多い。
   脳塞栓cerebral embolism……栓子(血栓)が流れて来て引っかかり、血流がとまる。若くても血栓ができやすい人もいるので、若者でもおこる可能性がある。偶然つまり、突然症状が出る。

・頭蓋内感染症intracranial infection
 細菌がどこについたかによって、
脳髄炎meningitis
脳炎encephalitis
 どちらにしろ高熱が出て、後遺症が残る。
EX.日本脳炎、結核性髄膜炎tuberculous meningitis、ヘルペス脳炎(前頭葉、側頭葉内側面などに影響)
脳膿瘍brain abscess占拠性病変の一つ。膿んだ細胞をグリア細胞が取り囲み、他に広がらないようにする。

・脳外傷cerebral trauma(頭部外傷head traumaともいう)
 閉鎖性頭部外傷closed head injury(非穿通性頭部外傷nonpenetrating injury。頭蓋骨は無事、脳が損傷)
 開放性頭部外傷opened head injury(穿通性頭部外傷penetrating injury。頭蓋骨損傷、脳損傷)
  ※contra coup反衝損傷
   外傷の反対の脳部位が損傷。脳の前後でおこり、左右ではおこらない。脳は髄液に浮いているために、頭蓋骨の移動速度についていけず、脳が骨にぶつかってしまうためにおこる。
  ※脳挫傷cerebral contusion脳の実質が壊れていること。
  ※脳震盪cerebral concussion頭部に強い衝撃を受けて、一過性に意識を失う。後遺症は残らない。生理学的な一次的機能低下?

 主な臨床症状
失語症aphasia
失認症
失行症
健忘症

 失語症aphasia

大橋博司『臨床脳病理学』
定義:大脳の一定領域(言語野)の器質的病変に由来する、言語表象(verbal symbol:口頭言語と書字言語)の表出ないし了解の障害。末梢性の受容器官ないし表出器官の障害によるものではない。一般精神障害(意識障害、知能障害、情緒障害)によるものでもない。
acquired aphasia後天性失語(獲得性失語)
developmental aphasia発達性失語
 dysphasia不全失語症=aphasia
↑不完全に失われている   ↑完全に失われている

 失語症に見られる障害の諸相

A言語の表出面
1.表出の減少
(1)全制止
 一言もしゃべらない。語唖word dumbness。自発語もなく、復唱も不可。
 無動性無言症、重度のうつとは異なる←これらもしゃべらないが、話すモティベーションが異なる(これらはアイコンタクトもとらない)。

(2)少数の残語がある状態
 残語――重度の御唖でも残っている発話
 言語常同症verbal stereotype
 再帰性発話recurrent utterance←しゃべろうとすると残語が出てくる

 語唖からの回復過程――発作直後は症状が重く、段々回復する
一.残語の出現――常同語
二.常同語の抑揚の変化
三.指示語の出現(系列語、自動語の回復が早い)→再帰性
四.他の語の出現

(3)喚語困難word finding difficulty語健忘
 いいたい語が出てこない。自発語は困難で、復唱も困難。名詞、固有名詞が特に困難。
  呼称テストnaming test
   naming defect呼称障害
   anomia失名辞 ←circumlocution迂回操作、迂言という特殊な状態が出る。ナイフを見せると「ナイフ」といえないのに、「切るもの」という。初頭音やカテゴリーのような手がかりを与えると分かる患者もいる。

(4)失文法agrammatism文が単語のられつになる。助詞が抜ける。
   ↑ 文の意味(実質語)は残り、形体部(機能語。助詞など。てにをは)が省略される。
   電文体発話telegraphic style……Broca失語(前頭葉の前)で典型的におこる。しかし、コミュニケーションを取るという点では、表出の障害は割合に苦労をしない。

2.表出の乱れ(失語の一つ下の段階)
(1)構音(調音)articulationの乱れ……言語音を出す働きの乱れ
 二通りの原因
麻痺性構音障害dysarthriaによるもの……発語に関係する諸器官の中枢の損傷によって起る構音の障害。発声筋の麻痺、筋力低下、協応運動の障害、が直接の原因となる。音を出すための道具の障害。
発語失行verbal apraxiaによるもの……発語に関する諸器官の麻痺。失調がないのに、意図的な構音が困難な症状。筋力も知能も正常。←autonomic-voluntary dissociationの状態がある。意図的にしようとする行動はできないのに、無意識的にはやっている。
   ↑構音運動のmotor programmingの障害といえる←意図的な発話には、時系列的な運動のプログラミングが必要だが、それができない。dysarthriaより高次な段階。

 症状
音のひずみ、音の置換(別の音になる)、音の脱落、添加
dysarthriaとverbal apraxiaで特徴が違う。

dysarthria verbal apraxia
1ひずみ構音が圧倒的に多いが、日本語になり音にひずむこともある。 1ひずみに構音はほとんどなく、音の置換が大半で、構音のやさしい音が難しい音にかわることもある。
2音の置換は少ないが、置換が起る場合は構音がやさしい音にかわる。 2音の脱落、添加、反復、音位変換(位置が入れ替わる)、なども起る
3構音が困難な音やその障害のされ方が一定している。 3構音を誤まる音や誤り方に一貫性がなく、ある時に言えた音がその直後に言えなくなったりする。
4声や共鳴に異常がある。 4発音が意図的ほど誤りが多くなる。声や共鳴に障害はない。

(2)失音調dysprosody
 話し方の調子、リズム、アクセントが変化する。喚語困難などがあまり出なくても起る場合がある。

(3)作話paraphasia
 (a)音韻性作語phonemic paraphasia
    字性作語literal paraphasia
 (b)意味性作語semantic paraphasia
    語性作語verbal paraphasia

(4)錯文法paragrammatism……文法の誤用(活用を間違うなど)
 non-fluentぽつぽつとしかしゃべらないタイプと、fluentぺらぺらよくしゃべる(理解の障害がある患者はよくしゃべる)タイプがある。

(5)新造語neologism

(6)ジャーゴンjargon
 錯誤、錯文法、新造語が著しく、聞いている方が理解困難。
  Alajourmine……言語表現がその国の国語の約束が理解できなくなった発話。
遠くから聞くと、発話のプロソディーは正常(普通にしゃべっているように聞こえる)が、よく聞くと訳が分からない発話になっている。自覚がない(理解の障害がある人の典型的な例、病態失認(病識欠如)ansognosia)
→さらに進むと、疾病否認denial of illnessしてもされても全然認めない
 典型例:アントン症候群Anton's syndrome
 cortical blindness皮質性の患者で時々見られる。見えないのに普通に歩いてぶつかったり、間違いを指摘すると作話confabulationをする。

(7)反響言語echolalia Geshwindらが報告
 人の言うことをそのまま言い返す。自発語も理解もなく、復唱のみが可能な状態。
 completion補充。系列としてプログラムしているものを全部言うEX.月水金を求めると、曜日を全部言う。患者は歌の学習ができた。
→解剖の結果
 言語野孤立症候群isolation syndrome
 言語野が他の領域と連絡が絶たれている(→経験やプランニングなどができなくなった)
B-Wは、機能としては限定されたものしか持っていない。
歌の学習ができる→海馬hippocampusが無事だった。
※H.M.……重度の前向性健忘anterograde amnesia

(8)反復言語palilalia 語間代logoclonia

B.言語の受容面、理解面
1.皮質聾cortical deafness
 皮質聴覚野の両側性損傷――音が聞こえない。非常に稀。
2.語聾word deafness
 言葉の聞き取りの障害。語音弁別の障害。聴力異常はなし。
 純粋語聾pure word deafness……喚語困難がないので、普通失語症には含めない。しかし、皮質下性感覚失語という場合もある。
 言葉の聞き取りが悪いだけ。復唱、書き取りも悪くなる。自然音は聞き取る。
→どうして自然音は聞き取るのか?
     聴覚失認auditory agnosiaは自然音がだめ(語聾と逆)。
Albert & Bean(1974)の有名な論文
→聴覚刺激の時間分解能の低下ではないか。
言語音 × ○ 左半球の損傷
自然音 ○ × 右半球の損傷   二重乖離double dissociation
         ↑ 聴覚性失認
 言葉の聞き取りの障害
単音の聞き取り  × ○
ことば(高頻度語) ○ ×