11月20日

 Brocaの言語観

 第3前頭回とaphémie(運動性失語症)の関係
→第3前頭回の機能とは何か?
→aph
émieとは何かをはっきりさせなければならない

 言語……思想を多少とも明瞭に、多少とも完全に、多少とも迅速に表現することを可能にする表示法(音声言語、書字言語、手話……)

 普遍的言語機能
         に分けて議論
 構音言語機能

 普遍的言語機能とは、
・思想を表示する全ての様式を司る働き
・ある思想とある表示法との間に、恒常的な関係を確立する働き
  →各様式の表示法には→受信器官、発信器官が伴う。

 各様式の言語が成立するための前提
1.いくつかの筋と、それに入る運動神経、ならびに中枢神経内のこの神経の起始部が健全であること
2.知覚神経の外部感覚器官のあるもの、および中枢神経系内のこの神経の終始部位が健全であること
3.普遍的言語機能を司る脳の部分が完全であること
 →現在、失語症という場合は、3に注目することが多い。
aph
émie:普遍的言語機能は健全
     聴覚系も健全
     発声、発話に関係した筋は、すべて意のままに動く
    →それなのに、脳の損傷によって、構音言語機能が失われている
       ↓
    では、何が欠けているのか?
  →言語を発する機能
  発すべき音節に相当する系統だった整然たる一連の運動を行うことができない状態
  →aph
émieの患者が失ったものは、
・普遍的言語機能でもない
・言葉の記憶でもない
・構音の筋や神経でもない
・構音言語に特有な運動を秩序立てる機能
・一種の、記憶喪失
・言葉を発するためにたどられるべき運動の記憶の喪失
                  ↑言語の運動に関係、運動プログラム(表出の障害)
 普遍的言語機能の喪失=失語
   この間にaph
émie=verbal apraxia発語失行 ※筋肉麻痺はないのに、意図的にある行為ができない。理解の障害はなく、失語ではない
 言語の道具性の喪失(EX. dysarthria麻痺性構音障害)
         autonomic voluntary dissociation反射的にはやっているのに、意図的なことはできない

 Broca以降
局在論(ブーイヨ)と全体論(フルーラ)の論争が変化してきた。
1863年、8例
 65年 左半球で話す
→言語の左半球優位

Brocaへの批判
 Mark DaXの息子、グスタフ Daxは、父Markが先駆であると主張
 Trousseauは、
aphemieという言葉への批判(aphasieというべきである)
 →aphasia(英)

 Charcotの症例
1863年死亡した患者の剖検autopsy
 →失語なのに、第3前頭回は健全であった。
  病巣は、第1、第2側頭回脚部、島後部、角回、縁上回

 

 H.Schuell言語病理学者
 医学からの失語症の分類ではなく、臨床からの分類

 1874年C.Wernickeの登場
第1側頭回後部(上側頭回)……Wernicke's Area
 感覚性失語
  運動性失語とは違い、錯誤、理解障害を呈する。従来、精神錯乱や痴呆に分類されていた。

 Wernicke以前

 イギリス
Banks(1865)
 CVA後、deafness paraphasia
Jackson(1868)
 失語を二つに分ける
  speechlessness(しゃべらなくなる)
  producing plenty of words, but with mistakes(よくしゃべるようになるが、間違う)
Bastian(1869)
 理解障害の症例

Theodore Herman Meynert(1833〜1892)
 当時、最高の神経解剖学者。解剖と機能との関係に関心を持った。
中心溝の前――運動機能
中心溝の後――感覚

 脳の線維学の確立
・投射線維……皮質以外の部位と連絡を持っている線維。projection fibers
・連合線維……大脳皮質の中で異なる部位を結ぶ。長いものも短いものもある。association fibers
・交連線維……左右の大脳半球を連絡する線維。最大のものは脳梁。commuissure fibers

 Meynertの症例(1866)――23歳のdomestic servant
突然、言語機能の障害
錯誤の多い発話
片麻痺はなく、2週間後に死亡
 →剖検

most posterior insular artery後insular動脈の梗塞
病巣:posterior operculum弁蓋部後部 insular operculum第1側頭前回のinsular弁蓋部

 

 

その後、2例の島の損傷による失語症

 C.Wernicke(1874)
失語症候群:解剖学的基礎に立つ心理学的研究
第一部:理論的立場の展開
第二部:理論の失語への適用
第三部:症例研究による例証
 →言語と脳のモデルといえる

 Wernickeのモデル

第1(3)前頭回:発語筋神経の中枢側終末。言語の運動心像(言語を発するための運動プログラム)。島皮質。連合機能

 

第3側頭回:聴覚神経の中枢側終末。言語の聴覚心像(同じ言葉だと、声のトーンなどの物理的心像が異なっても、理解できる)

 

 Wernickeの症例:10例

純粋症例pure case

 Case1 S.A. 59歳、女性
1874年、3月1日、突然めまいが起り、発症
  言語錯乱と見られる→以下の理由で、失語症ではないかと思われた。
・質問すると、質問にはまったく別のことを答える。
※言語の非言語学的側面はほとんど傷害されない(情動、表情やトーン、質問されていること自体の理解)
・実際のドイツ語には存在しない、begradenが再帰的に出てくる。
・'目を開けて下さい'といっても、舌を出す。
  →ちがうというと、何を見せればいいのですか、と感情的になる(感情的な時にはふつうにしゃべる)
・物品は正しく使用する(失認、失行はない)
・失書、失読
  ↓次第に回復
自分の名前に反応
 最終的には、失書以外回復

Case2 S.R. 75歳、女性
 剖検はあるが、症状の記載はわずか
1873.11.2 言語錯乱で発症
   話すことは流暢。臨床像は第1例と同じ。
   命令に従えない。
 12.1 死亡
剖検
 両側大脳半球の萎縮。
 第一側頭回、第二側頭回の脚部-Wernicke's Area
 側頭葉から島に入る線維の切断

Case3 伝導性失語conduction aphasia
 Wernickeが最初に記載
 B-Wの間が壊れたため。
1874.3.15 64歳男性、失読、失書が発症。
    18 音声言語の障害が出現。
臨床像:言語理解は正確
    運動失語の特徴なし
    物品の呼称は喚語困難(使用法は正しく示せる)
 ↓
Wで作られる聴覚心像が、Brocaにいかない(B-Wの間が絶たれているから)
 間違いのフィードバックが分かり(W自体は無事なので、訂正しようとする)、復唱が悪い。

 失語の古典論の確立

Wernicke-Lichtheimの失語図式

 

M:運動性言語中枢
A:感覚性言語中枢
m:発話の運動器官
a:聴覚器官
B:皮質の言語器(M,A)を刺激して活動させる皮質の広範な部位の図式的表示。特定の部位を指すのではない。概念中枢にあたるもの。

1.皮質性運動失語
5.皮質下性運動失語(純粋語唖)  表出性、運動性の失語
4.超皮質性運動失語

2.皮質性感覚失語
7.皮質下性感覚失語(皮質聾)   皮質性の失語
6.超皮質性感覚失語

3.伝導失語

超皮質性運動失語(復唱はできて、自発話ができない)
超皮質性感覚失語(復唱はできるが、理解ができない(概念系と結びついていない)