心理学特殊講義

神経心理学の歴史
・大脳局在論(精神機能の脳局在)〜Paul Brocaの発見(失語症)〜大脳半球の機能的優位性(優位半球VS劣位半球)

 Broca
頭蓋骨の測定やクロマニヨン人の命名なども行っている。
 神経心理学の最初の年とされる。
 ある特定の機能はある特定の領域と強い関係がある。言語という特有な機能は、他の動物は獲得しておらず、人間の脳においては側性化している。サルレベルでは、右脳と左脳に機能的な差異がない。
 あるテーマが決まったとしたら、脳からどのくらい説明できるのか、脳のどの場所に決定できるのか、右脳と左脳の機能的違いからきているのか、といういくつかの視点でどのようにしてみるのかが重要。認知という大きな情報処理プロセスに注意を向け、どのような機能がその中で障害されているのかという視点で研究が進められる。
・症状発現機序に関わる離断概念
・分離脳(分割脳)研究の知見
・右脳機能への関心(劣位:芳名の返上)
・認知神経心理学的研究の発展

 脳科学研究の手続き
・神経生理学的(電気生理学的)測定法:
 脳波・誘発電位/脳磁図/脳代謝測定/画像診断法
 血流と代謝を同時に取る技術はまだできていない。
・実験心理学的研究法の応用:
 集団データ解析法(タキスト・スコープ法、両耳分離聴法)/−事例研究法
・臨床研究法

 神経心理学の研究テーマ
・機能の局在
・左右半球の機能的非対称性(ラテラリティ、優位性)
・分離(分割)脳研究
 脳梁切断
・利き手と脳
・性差と脳
 機能解剖学的違いや、それからいかにジェンダーが獲得されていくか。社会的機能が脳により獲得されるとしたら、ジェンダー論にとっても重要な様相を呈してくる。
・発達と脳
 発達障害を従来の母子関係だけでは説明できないことは明らかであって、心理的ケアと脳研究のどちらも必要になっている。
・精神疾患と脳のラテラリティ(精神病理と脳・学習障害と脳)
・環境/教育/文化と脳
・動物の脳と人間の脳
・臨床研究(脳損傷者の行動)

 脳がわかれば心がわかる?
・心は脳の産物
・心の機能的領域の存在と解剖学的領域はどの程度一致するのだろうか?
・見えることは、分かることとどの程度一致するのか?
・脳がわかれば心がわかる?=\―21世紀は心理学の終焉?

 発達と脳
・脳の重さ・誕生時(成人の約4分の1)→3歳児でほぼ同じ
   ↓
 何が起こっているのか(氏か育ちか)
他の動物は親と子の脳のバランスや形態はほとんど変わらない。人間は生理的早熟の状態で産まれてくるが、すでに胎児期から外界からの刺激を弁別して処理しているであろう。

・左右大脳半球の機能的差異
   ↓
 誕生児すでに存在しているのか?それとも発達と共に生じるのか?
 加齢によってどんな変化が生じるのか?
←遺伝か環境かの問題

加齢の問題を脳の変化という視点で捉えることによって、

加齢と言語障害
Brown(1975)
右耳(左半球)優位が加齢と共に増大し生涯持続する。
→右脳に提示された刺激が処理されるまでの時間が長くなったり処理が正確ではなくなる
 →加齢と共に、左右脳の機能的なバランスが崩れる。
   ↑反論
年齢による優位差の程度差はない(Borod, 1980; 八田ら, 1983)

Clark(1973)
15-74歳→すべての年齢層でBrownと同様の結果→左耳の再生量は減少(右半球処理能力の減少)。

Riegeら(1980)
触覚機能の左右差
 若年者(20-29歳):左手優位
 老年者(70-84歳):優位差消失

半球差の発達不変説と段階的発達説との統合
 Levy(1980)
「大脳半球の機能差は誕生寺に存在しており、その差異の大きさは発達的には変わらない/脳の機能的可塑性はこれとは別に存在しており、発達につれて徐々に減少していき、思春期頃(12-13歳)消失する」
→人間は最初から「人間の脳」として産まれてきており、胎児期から活動をはじめている。

 チックTic/吃音Stuttering
双方とも、心理学的要因だけでは説明できない。男女差がある。
・筋肉性の不随意性のれん縮の繰り返し(顔面、瞬目)
・発生チック:汚言症
・不安、攻撃性の発散の役割
・男女比:3対1
・器質要因+環境要因
 吃音Stuttering
・自然消失:治療による治療:残存=それぞれ1/3ずつ
・どもり≠フ病理→10歳前後の初発(語間代,SDAT←後ろの方の語が保続的に重なる)
※どもりによって、心因性の病理を引き起こすことは考慮に入れなければならない。
・男女比:4対1
・社会的適応に問題ない

 注意欠陥/多動性障害
・持続的多動+注意散漫+集中時間の短縮
→+衝動性、易興奮性、かんしゃく発作、欲求不満態勢が低い、学習障害、反社会的行動
・LDの40%にADHD
 ADHDの90%にLD
→脳の機能不全
 学習障害などの治療の失敗は、結果として出てくる学習の不全にアプローチしているからである。学習障害は、学習の基盤となるある基盤の機能不全や遅れが原因となって、学習障害が現れるのであって、その機能にアプローチしていかなければ意味がない。
・出現率:3〜24%
・脳波異常:35〜95%
・低覚醒説:ノルアドレナリン活動の低下
 リタリン(神経興奮剤)の投与によって症状が低減する。多動というのは結果であって、本来は活動性が低まっている。
・男女比:5〜6対1
・ADHDと診断された子供が大人になると、分裂病の発病率が高かったり、社会的不適応を起こしている率が高くなっている。
→多動だからではなく、社会的要因
 →叱責の機会が多くなる→否定的自己像の形成/対人関係トラブルにトラブルをおこしやすくなる/劣等感、疎外感を形成しやすい。

 ADHDの神経心理学
・ADHD, Tourette's Syndorome(チック)はなぜ男児に多いのか?
→背景にある基底核の異常
・性的ニ形成sexual dimorphismの事実→基底核basal gangliaにみられる性差(核の大きさの違い・尾状核calculate=女>男、淡蒼球globus pallidus=男>女)
・右前頭前野線状体システムの機能障害の可能性:右淡蒼球と右前頭葉前方領域が小さい(Castellanos, et al., 1995)

 自閉症autismの神経心理学
・自閉症患者:脳幹brainstem(視床+中脳+橋+延髄)が正常より短い:上オリーブ核の欠損(聴覚情報の中継)+顔面神経核(顔の表情表出筋の制御)が小さい→眼球運動、顔面表情の異常に反映(妊娠初期:妊娠に気づく以前20〜24dsに障害が発生していることが示唆)
・小脳の神経細胞の減少

 利き手と脳
・利き手の謎:利き手=人という種に存在する現象であろうか?
→チンパンジー:種族内−右を好んで使う個体と左を好んで使う個体は5対5の割合であるが、習慣の問題であって両手利き的
 サル以下(イヌ、ネコ):左右差を含め報告なし。
    ↑
大脳半球の機能的非対称性の反映(言語機能の側性化)?)

・非右利き(左利き)がなぜ存在するのか?
・非右利き(左利き)の脳は右利きの脳とどのように違うのか?
    ↓
・非右利き(左利き)の成因(遺伝説、環境説、病理説など)
←非右利き(左利き)と免疫性、疾患、非右利き(左利き)と事故死亡率、非右利き(左利き)と寿命の長さなど。

 非右利きという表現・・・・右利きになることが決定的に多いことから。
→では、なぜ右利きになったのか?
    なぜ右利きにならなかったのか?

・利き手誕生の謎
@重心説 A社会的進化説 B第1頭位説 C緊張性頚反射説 D文化説
 →脳の側性化の方にむしろ関係がある。

E病理説:ごく微細な脳損傷のため本来右利きであったはずが左利きになった(胎児期の母体ストレス、出産時難産)
 Porac. C. et al.,(1981):吃音、発達性失語症、読字障害児、てんかん児、多動児 → 左利きの占める割合が多い

F遺伝説
双生児研究
 a. 利き手の一致度(一卵性、二卵性に差なし)
 b. 左利きは5人に1人の出現率
 c. 一卵性に見られる鏡像化減少(利き手、旋毛、指紋の流れ:4分の1に観察)
 d. 多動児の出現率が高い → 体内環境が厳しいため?

・家族性の左利きと脳
 どちらの半球の損傷でも、失語症、失行症が生じる確率が高い
→家族性でない左利きでは、右半球損傷で失語症が生じることはない
・Right Shifter 遺伝子(Annett. M)を持たない人が、偶然の確立で左利きか右利きになる(幼児期に脳損傷で左利きになった親同士の間に生まれた子供は右利き)

・Peterson, J. M(1974). 建築学科の学生には左利きが多く、成績のよい学生の大半を占める。
・Deutsch, D(1978):音の高低(ピッチ)の記憶の成績(左利きのエラーは34%。右利きのエラーは42%)
・Pasmussen, T(1977):Wadaテストより、右利き:左半球に発話機能−96%→左利き:左半球に発話機能−70%(右半球−15%、両半球−15%)
・左利き、脳損傷後の症状の回復がよい
・左利きの寿命:大リーガーの寿命が短い
・左利きの事故死亡率:事故発生率、死亡率が右利きに対して高い

ADHD注意力欠如・多動性障害
 些細なことで怒ったり、自分の感情や行動を自分でコントロールできない。

 その子がなるべく困らないような、周囲と孤立しないようなやり方をとらなければならないが、注意しようとしたときにどこまでいえばパニックにならないようにできるのか、どう接すればいいのかが現場の教師の中で問題になっている。

 知的にも問題がなく、ADHDと気づきにくい。全国的な統計の調査はないが、しつけの問題と混同されやすく、親も学校も対応に苦慮することが典型的である。現在分かっているよりも人数は多い。周囲の適切な対応によって十分社会生活を送っていけるが、十分な理解がされていないため、厳しく叱るなどの対応がとられがちである。

 DSM-Wでは、18項目の診断基準に半年以上当てはまる子供を、ADHDと診断している。アメリカでは200万人以上がADHDと診断され、全米で500箇所以上の診断・治療施設がある。

 ADHDは脳の前頭葉の働きに関係していると考えられている。通常、神経細胞から放出されるドーパミンは、相手の神経細胞に情報を伝えたあと戻るが、ADHDの子供は何らかの原因でドーパミンの量が少ないか、相手の神経細胞に何らかの障害があることが考えられている。

 放っておくと症状は悪化することが多いため、早めの治療が効果的である。アメリカでは、およそ8割の子供(約150万人)が薬物療法を受けており、最も多く使用されているのがリタリンである。リタリンは興奮剤の一種で、食欲不振や不眠の副作用がある。

 現在では、日本でもリタリンを服用しながら学校生活を送る子供も増えている。ADHDは中学校にあがるぐらいになると多くが消失する。つまり、成長にしたがって症状がなくなることが知られている。長い年数をかけてどのような効果が期待できるのかの情報を教師や親へ提供することも、臨床心理士の仕事になる。

 多動は、一度行動が解発されると、行動を途中でやめることができない(ADHDの子を無理やり抑えつけるのは効果的ではない。行動が終わるのを待つのが一番はやく、効果的)。よくにたことは、脳障害者の保続にもいえ、前頭葉機能の不全といえる。またさらには、機能として落ちているだけでなく、解剖学的に核が足りないことや小さいことが示唆されている。

 失語症

 知的能力に低下はほとんどないのに、言語が不自由な症状。構音機能障害とは区別され、言語の高次能力にかかわる障害。
運動性失語:日常会話の理解は可能だが、話すことが非常に難しい。
感覚性失語:理解面での困難。復唱のテストをすると、復唱は可能。痴呆と間違えられやすいために区別が重要になる。
健忘失語:このタイプの失語は比較的障害が軽く、日常会話程度は困難さを示さない場合がある。障害が軽いからといって悩みが小さいわけではない。
構音障害が見られる場合には、必ず自分が聞こえたとおりに聞き返すこと。
全失語:相手の表情や雰囲気を認知できるが、言葉を発することができなくなる障害。食事、排泄、着替えなどの身の回りの動作を通じてコミュニケーションを促進する。その次の段階では、いっしょに何かをやってみる(ゲーム、食事など)。そのことを通じて、様々なコミュニケーションを促進したり意欲を高めたりする。

言語と脳:失語症の理解
失語症aphasiaとは:大脳の言語領域の損傷により、獲得された思考の言語記号化の機能が低下することで、表出の障害された運動(性)失語motor aphasisaと、了解の障害された感覚(性)失語sensory aphasiaに大別される。その他、伝導(性)失語conduction aphasia、健忘(性)失語amnesic aphasia、全失語total aphasiaが代表的。
書字言語の理解:「かな」より「漢字」の方が良好。

表出性の失語
ブローカ失語Broca aphasia:自発語が少なく、構音がぎこちなく、流暢性non-fluentを欠く/文の構造が省略(失文法agrammatism)され、復唱が困難/言葉の理解も影響されるが比較的保たれている。
純粋語唖pure word dumbness:了解は良く、発話のみに限定された障害(構音の失行)。

了解型の失語
ウェルニッケ失語Wernicke aphasia:語音や語義の把握が悪く、会話は流暢fluentだが、自発語、復唱ともに保続や語健忘word amnesiaが目立ち、錯語(語性錯語と字性錯語がある)に置き換えられる/多幸的で病態失認傾向をもつ。
ジャルゴン失語jargon aphasia:錯誤が顕著で意味不明の語を多弁に羅列する。
純粋語聾pure word deafness:口頭言語の了解、復唱、書き取りのみが障害→語健忘、錯誤はほとんどない:聴覚失認との区別が困難。

超皮質性失語症
〜運動失語transcortical motor aphasia
〜感覚失語transcortical sensory aphasia
語義失語:漢字の読み書きが不良で、文意を無視して表音的な錯読をする(日本語特有の失語)。
この2型が混合すると、復唱のみが保たれて反響言語になりやすい。

伝導失語と健忘失語conduction aphasia
了解はよい、自発語と復唱が障害/語健忘、字性錯語、錯読、錯書、錯文法が顕著。誤りの自覚があり、修正行動が見られる。構音障害は見られない。

amnesic aphasia
喚語困難を主徴/発語は流暢、復唱は可能で、了解もよい。語の喚起ができず、迂遠ないいまわし。circumlocutionが特徴。二大失語の回復期に見られる。

その他の失語
交叉性失語crossed aphasia:右利きの右半球病巣による失語で、口頭言語や文字の了解が比較的よい/左利きの左半球病巣によるものには用いない。

緩徐進行性失語slowly progressive aphasia without generalized dementia:痴呆のごく初期に言語に限って起こるため痴呆を主に置く立場と、最終的に痴呆に至るが言語に特殊化された障害であるため失語であるという立場がある。健忘失語の要素が強く、反響言語、言語新作を示すものもある/局在症状のみが徐々に進行する痴呆(初期には記憶、人格障害は目立たない)。
精神発育遅滞児では反響言語は発達の初期で起こる病態であるため、緩徐進行性失語による反響言語とは異なる。精神分裂病による言語新作は発症年齢がこれも異なるため、鑑別することができる。

失書症と失読症
agraphia
知能、運動機能の障害によらず、脳の後天損傷により文字が書けないこと。
純粋失書pure agraphia:脳梁損傷による左一側に見られる失書。
失語性/構成失書/失行性/空間(失認性)/

alexia
脳の後天損傷により書字言語が理解できない。LD児でも中核症状として同じような症状が起こるが、発達初期の段階であるため読字障害といって特に区別する。
純粋失読pure alexia:文字形態の視覚認知が不良(他の感覚情報を利用すると改善:自覚を指でなぞる)+右同名半盲・色名呼称障害
失語性/失読失書/alexia with agraphia

右脳損傷と関連する臨床症状
 左脳は局在的に機能分化が進んでいる(左脳は進化上もっとも優れた臓器である:優位半球dominant)一方で、右脳は劣位半球と呼ばれ、長らく忘れられてきた。しかし、脳損傷やリハビリテーションの現場では、右脳損傷は適応性が低い、訓練効果が上がりにくいなどネガティブな評価を受けやすい。近年では右脳はコミュニケーションや空間認知に重要な役割を果たしていることが明らかである。

・視知覚関連症状
 視知覚/視空間機能障害:視覚−言語性プロセスの障害:視覚−象徴性プロセスの障害:視覚運動障害
・身体像の障害−病態認知の障害
 幻肢や自分の体が誰か他人のものがくっついているのだといったり、病態否認などがあらわれる。
・言語プロセスの障害
・情動及び感情の障害
 自分の障害を把握することに障害がある場合があるため、ある意味で多幸的であることもある。
・一般的行動障害(パーソナリティの問題というよりもむしろ、コミュニケーション障害から社会的行動障害などを引き起こす)
・見当識障害
・非言語的プロセスの障害

 右半球症状の特徴(症状が現れる発現機序)
・純粋型が少ない(混合型)
 左脳の場合は、局在が進んでいるので、ある領域が障害されると一つの症状が出てくる。
 ところが右脳の場合は、半側無視や空間失認などが単独で出ることは少なく、構成障害や着衣失行、病識のレベルが低かったりなどの症状を合併する。
・損傷部位より損傷の広がりが重要
 一つの障害のレベルは、損傷領域というよりも広がりが重要であり、全体が関与して一つの処理を行っているのではないか。
・反応の結果では見えない症状の本質(反応様式、反応の仕方に注目)
 →臨床症状を把握する上で、反応のプロセスを見ておかないと、右脳損傷の認知プロセスは見えなくなるため、情報処理プロセスなどの認知的視点が重要になってくる。

 半側空間無視とは
 人間は、片方の視野における情報は交叉して処理される(右脳で統合される)ため、損傷部位と対側の情報の認知が障害される。
・「(右)大脳半球損傷側の対側空間に提示された刺激を報告する、刺激に反応する、与えられた刺激を定位することの障害」(K. Heilman, et al)
→半側無視の研究に関して、フロリダ学派が非常に膨大な研究をおこなっている。大脳半球損傷側の対側空間が障害されるが、主に左側無視が多く起き、症状も重くなる。
・ADL(activity of daily living:日常生活動作、日常生活活動)上観察されること:食事のとき左側半分を食べ残す、左の対象に手をつけない、左をぶつける、左に曲がらずに通りすぎる、左側のページや文字を読み落とすなど。
 →日常の適応に著しい困難を生じる。

 半側無視の出現領域
・視覚モダリティ優位
・他の感覚モダリティにも出現(聴覚、触覚)→trimodal neglect
 左側から声をかけたり、左側から肩を叩いても気づいてくれない場合がある。
 見落としたり注意できないだけでなく、一つの情報処理が完結したと思うところに半側無視の重要な部分があるであろう。

 半側無視をめぐって
・脳損傷の臨床の場で、失語症と同様、必ず遭遇するほど出現頻度が高く、劇的で印象的な症状 → 患者自身から積極的に訴えられることは少ない
・検討課題:
 @損傷部位の局在性
 A左右大脳半球の機能的非対称性
 B検査法
 C症状の発現機序
 D他症状との関連性
 Eリハビリテーション

 半側無視の不思議
・症状への気づきの問題(awareness〜insight):歪んだ空間の住人≠ヘなぜ気づかないのか?
→認知の主体に帰属する客観性(あるがままの知覚)
 障害を受けたとしても、その人にとって客観的であるため、空間が歪んで見えるなどの訴えは出てこない。
 →そのため、リハビリテーションが非常に難しくなってくる。
・ロールシャッハ図版で特徴的にならない
 無視現象(形態水準の低い全体反応の出現)
・錯視量の減少
→ミューラー・リヤーの錯視などが出てこない。

 半側空間無視研究から見えること
・あるがままの知覚≠フ実証
・知覚は外界の単なる模写ではない
・知覚の文脈効果/知覚者の構え、期待、仮説による知覚体験の変化→知覚者(認知)側の認知体系(情報処理過程)は総合的な機能である。←半側空間無視に見られる刺激特性(情動価)と無視症状出現の変化。情動に影響があるため、対人関係の構築にも影響を与える。

 右脳症状としてのコミュニケーションの問題
・背景に考えられる感情認知機能の障害
・プロソディの障害aprosodias
・気配・雰囲気≠フ認知の障害
 ←空間認知障害の発展型?
 ←「心と関わる能力の欠如disturbances of contact」(Kanner, L, 1943←幼児自閉症の記述)と同質の問題?

 右脳のコミュニケーション障害が引き起こすこと
左脳損傷の場合には、言葉は障害されていても感情や他のツールでコミュニケーションを図ることにそれほど困ることはない。しかし右脳損傷の場合には、言語機能は障害されていなくても、対人関係に問題を生じやすい。
・関わる側の心理的適応性の問題
 →否定的感情を生起させやすくなる
 →否定的、修正的態度形成
 →徐々に対人関係がうまくいかなくなり、よい関係≠フ崩れへ発展。
・医療・福祉現場のスタッフ、生活を共にする家族、訓練会参加者との関係の崩れを引き起こす可能性。

 コミュニケーションの障害とは
・言語/意味の理解の障害は、なんによるものなのか?→言語機能の問題か、記憶、注意の問題か?
・言語の問題(失語症)なら、提供する情報量を減らし、具体的な情報にする。言語以外の手段も利用する。
・記憶・注意の問題(痴呆症、右半球症状)なら、提供する情報量を限定し、一つ一つ対話が終了するように工夫する。