うつ病について

 

 最近は、精神医学的な用語が一般的になり、従来はなまけ病なんて思われていた病気の代表格のうつ病でも、「もしかしてうつ病かもしれない」と思って受診されることが多くなりました。

 それ自体はよいことなのですが、きちんとした理解っていうのは、あまりされてないような気がします。何でもかんでもうつ≠ニいうラベルが貼られているような気がしてなりません。受診をせずにうつ病≠ニ名乗って、うつ病は気合で治る、なんて心がけ論をいう人がいまだにいないわけではありません。

 と、いうことで、今回は「うつ病depression」について解説したいと思います。

 うつ病は気分障害という診断カテゴリーに属します。詳しくはこちらをご覧ください。

 

 

【うつ病の原因】

 うつ病の原因は、一つではありません。内因と心因が複雑に絡み合っています。脳障害などの器質的な障害によるものもあります。
 内因っていうのは、病気のなりやすさみたいなものです。性格的には、真面目、仕事熱心、几帳面で責任感の強い人がなりやすいといわれています。心因は、心理社会的因子といいますが、うつ病を発症するきっかけとして、家族が死んだり、転勤や退職、引越し、病気などに続くことがあります。注意してほしいのは、昇進だとか結婚・出産などの喜ばしいことでもストレスになり、うつ病を誘発することがあることです。

 

【うつ病の症状】

 まずうつ病と似たようなものをいいます。
 誰もが気分の落ち込みを経験することがあります。仕事に失敗したり、受験に落ちたり、恋人と別れたりすると、ひどく哀しみ、鬱々とした気分になることがありませんか?これが気分の落ち込みです。よく時間が解決するなんて言い方をしますが、乱暴な話、多くの場合はほっとけばおさまります。特に死別や別離の悲しみを経験するときには重要で、十分に哀しむことが必要です。これを精神分析では、悲哀の仕事morning workと言っています。そんな悲しみなんてないように振る舞う方が、健康には良くありません。しかし、これはうつ病ではありません。
 で、またまた乱暴にいって、うつ病は、気分の落ち込みがものすごく激しくて、しかも長期間続いていると考えて下さい。これは時間が解決しません。ほっとけば悪くなる可能性があります。病気だからです。なかなか難しいのは、悲しみの体験に引き続いてうつ病を発症することが少なくないことなのです。もしあまりに長い間気分の落ち込みや悲しみが続くようであれば、精神科を受診した方がよいかもしれません。だいたい2ヶ月以上続くと、正常な悲哀ではなく、うつ病の可能性を疑います。

 症状をまとめますと、

・抑うつ気分……絶望感とか悲しみとか気分の落ち込みです。逆にイライラする人もいます。
・思考制止……口数が少なくなったり、何も頭に思い浮かばなくなったりします。
・意欲低下……何もやる気が起きなかったり集中力が落ちたりします。
・既死念慮……死にたい、死にたい、と何度も思います。

 以上のような精神症状と、

・食欲や性欲の減退……よく聞くのは、何か食べても砂を噛んでいるような気がする、などを訴えます。
・睡眠障害……眠れない、眠ってもすぐ起きてしまうなどです。
・吐き気やだるさなど

 以上のような身体症状が現れます。身体症状のみが現れるタイプを、仮面うつ病とよびます。

 

【うつ病の治療】

 治療は、薬物療法と精神療法が柱になります。しっかり治療を続けること。これが一番です。
 何より大事なことは、まずはゆっくり休むことです。うつ病者は怠け者なのではありません。むしろ、仕事や学業に忠実で、責任感が強い人が多いといえるでしょう。
 よく「うつ病の人にがんばれといってはいけない」と聞くことがありますが、ようするに安易に励まさないということです。がんばりまくって疲れきった人に、「がんばれ」というのはとても残酷なことです。フルマラソン走りきった直後の人には、「よくがんばった」と労をねぎらいますね?「じゃああと10q走ってみようか」なんていわないでしょう。うつ病者にがんばれということは、もう一回全力疾走しろといっているのと同じことです。まだやらなきゃいけないのかと追いつめてしまいます。
 また、「あなたの気持ちはよくわかる」「私も辛い気持ちになることがある」というのも安易にはいわない方がよいことです。普通に考えて、他人の気持ちはそんなによくわかるものではありません。自分の気持ちは他人とは違うものです。ましてや、絶望的になって死にたいとすら思っている人のつらい気持ちがそう簡単にわかるでしょうか。わかったようなことをいうな!という気持ちになるでしょう。
 では、どういう風に対応すればよいのでしょうか。
 一つは、「よくがんばった。だからいまは少し休みなさい」と休息をうながすことです。ちょっと良くなりかけた時に、またがんばりはじめてかえって状態を悪くすることがあります。そうならないように、しっかり休ませることです。
 もう一つは、一人にしないことです。孤独は人間にとって有害です。特に絶望感にうちひしがれている時には。また、「こんな絶望的な状況が一生続く。もうダメだ」と思う時、うつ病者の自殺の危険が非常に高まります。ちょっと状態がよくなってくると、自殺する元気も出てきてしまうのが難しいところなのかもしれません。
 また、うつ病の時には、重要な決定をしないことです。特に離婚や転職などは、ちょっと待って下さい。もうちょっと状態がよくなってから考えても遅くはありません。悪い方に考えがちな時に、重要な決定はするべきではありません。

 

【うつ病は治る病気です】

 風邪をひいた時、薬を飲んで治すのは当たり前のことです。
 うつ病になった時、薬を飲んで治すのも当たり前のことです。
 心は骨と筋肉でできてるわけではありません。よく「うつ病にならないような強い人間になるにはどうしたらいいか」と考える方がいますが、わたしはそれは本質的な問題ではないと考えます。そもそも、何をもって強い弱いというのか根拠がありません。
 大切なのは、コントロールすることです。そして一人で抱えこまないことです。

 うつ病は治る病気ですので、しっかりと治療を続けることが肝心といえるでしょう。