攻撃 aggression

 Barron(1977)の定義によると、攻撃とは、「危害を避けようとする他人に危害を加えようとしてなされる行動」である。攻撃の定義は簡潔であるが、いくつか特徴がある。第一に、攻撃は感情や動機のような内的状態ではなく外に現れた行動である。第二に、相手に危害を加える意図がある。第三に、肉体的な損傷だけではなく言語的間接的危害も含まれる。第四に、対象が無生物ではなく人間に危害を加える行為である。第五に、危険を避けようとする人に危害が加えられる、という点に特徴がある。
 攻撃行動の理論には大きく分けて、本能行動、欲求不満-攻撃仮説、社会的学習説、の三つがある。フロイトによれば、人間には生の本能(エロス)と自己破壊に向かって働く死の本能(タナトス)がある。死の本能は抑制されなければ生命の終焉をもたらすため、転移によって外部に向けられ、その結果他人に対する攻撃が生まれるとしている。またローレンツは、攻撃の動機づけが攻撃本能に由来するとし、内的衝動と外的刺激のニ要因からなる水圧モデルで攻撃反応を説明した。欲求不満-攻撃仮説を提唱したダラードら(1939)では、攻撃は欲求不満に対する反応として獲得された動因であるとした。最近では、内的要因と外的要因の両方が強調され、バーコヴィッツ(1969)は、攻撃の可能性は、攻撃へのレディネスと攻撃を誘発する外的手がかりの両方に依存するとしている。バンデューラの社会的学習説では、攻撃は本能や動因ではなく、個人が学習したモデルの結果である。攻撃反応の学習で重要なのは、攻撃の際の随伴経験であり、攻撃に続いて正の報酬を受けたり罪を免れれば、攻撃行動は強化される。また、直接学習以上に重要なのが観察学習であり、バンデューラ(1973)は、人が他人の攻撃を観察するだけで今までしなかった新しい攻撃をするようになることを示している。