同調 conformity

 他者や集団の基準と同じ行動を取ることあるいは期待に沿う方向に変化させることを同調という。アッシュ(1951)は、線分の比較判断課題を用いて同調に関する実験を行なった。アッシュは1人の被験者と7人の実験協力者の集団を作り、実験協力者にわざと間違う回答をさせた。すると、全施行で誤答は32%に上り、74%の被験者が少なくとも1回は誤った回答をした。また、実験協力者が3人のときに最も強い同調が生じ、それより人数が増えてもあまり変化はない。その後の研究では、同調率は課題の重要性や困難度、あいまいさや他者の判断とのズレ、集団凝集性が増すほど増大し、失敗体験や自信が低下しているものは同調しやすい。しかし、自己に対して社会的指示があるときには同調率は減少し、多数派の全員一致が破られれば、同調率は激減することが見出されている。
 またドイッチ&ジェラード(1955)は、同調過程に規範的影響と情報的影響の2種類の影響力が作用することを指摘している。規範的影響とは、受容されたいという動機付けに基づいて多数派の行動や基準と一致する方向に自分の行動を変化させることで、情報的影響は正しい判断を下したいという動機付けに基づいて他の集団成員の意見や判断を参考にした結果、自分の判断や行動を変化させる過程である。アッシュの同調性の実験では、規範的影響による同調が主であったと考えられる。またケルマン(1958)は追従、同一化、内在化の3タイプの影響を想定した。表面的に行動を一致させるが信念や態度は変化させないのが追従であり、影響源が賞罰を持つときに生じる。影響源が魅力的であり類似した存在でありたいと思う場合、自分の信念や態度をかえる同一化が生じる。また、他者の主張に信憑性があり納得して信念や態度をかえる場合、内在化が生じる。しかしモスコヴィッチ(1976)は、社会的影響の研究が同調に偏りすぎていることを批判し、アッシュとは逆に集団内少数派の影響を研究している。

 

少数派の影響 minority

 社会的影響過程の研究で少数派に関しては、多数派の影響下にあるネガティブな点が強調されてきた。モスコヴィッチ(1976)は従来の同調中心の研究を機能モデルと称して研究の行きづまりを批判し、集団の変化に焦点を当てて集団内少数派が果たす役割を肯定的な意味付けをする発生モデルを提唱した。そこでは、集団内の個人すべてが影響力を受ける対象であると同時に、影響源であるという前提に立つ。そして人間関係で決定的なのは葛藤の存在であり、これが人々を接近させる動因とする。モスコヴィッチは社会的影響を、多数派も少数派もなく同じ状況にある個人が妥協によって葛藤を回避する「規範化」、多数派の方向に葛藤を解決し集団を安定させる「同調」、少数派の方向に合意が向くように葛藤を作り出す「革新」の3様相に分けた。少数派は問題に対して新しい意見を導入し、集団内一貫性を混乱させて集団内に葛藤を創造する。その後も少数派は妥協を拒否し、多数派からの譲歩を引き出し自らの立場を受容させて集団に革新をもたらすという。少数派が影響力を行使する要因は、首尾一貫した少数派の行動様式にあるとしている。また影響は浸透するのに時間がかかるが、うわべだけではない真の態度変化を引き起こすという。