自己概念 self-concept
自分自身について持っている知識やイメージのことを自己概念という。自己概念は、過去の経験を統合した知識の形で表されるだけでなく、将来の行動や意志を左右し、その人自身についての新たな知識の獲得を方向づける一種の理論のような働きをする。自己概念の形成には、いずれの理論的観点も自分の周囲にいる他者との相互作用を通じて、自分自身の姿を修正しながら自己概念を作り出して行くことを示している。
例えば、クーリー(1902)やミード(1934)の象徴的相互作用論では、クーリーは他者が自分の心を映し出す鏡の役割を果たし、自分の行動をフィードバックすることで自己を知ることが可能になるという鏡映的自己論を提唱している。またミードは、自分の所属する文化や集団の構成員を一般化された他者とし、この文化や集団に共通する一般化された態度が、自己概念を作ると考えた。社会的比較理論を提唱したフェスティンガー(1954)は、人は自分の意見や能力を評価しようとする動因を持っており、他者の能力や意見と比較することで自分を評価するとしている。さらに自分と同等の人が比較の対象として選択されることが多く、能力は自己改善の動機に基づき自分より上のものと比較する上方比較が行なわれるが、自分が何らかの脅威にさらされたときには自分より状態の悪いものと比較する下方比較が行われることがあることを明らかにした。またデュバル&ウィックランド(1972)の自覚理論によれば、他者の存在は、自分の容姿や行動、その他の公的な場での自分に注意を向けさせる公的自己意識と、その人だけが直接意識できる記憶や思考、知覚といった私的自己意識に分けられ、それらの自己意識から本来の自己の有るべき姿である理想自己と現実自己とのズレに気づき、それを克服しようと動機付けられるとしている。
また、成立した自己概念は安定的である傾向が強い。グリーンワルド(1980)はこの自己概念の持続を、自己中心性、ベネフェクタンス、認知の保守化の3つの概念で説明している。自己中心性は日常生活で得る様々な情報をすでに形成されている自己概念に沿って処理する傾向のことで、そのため確立されている自己概念と整合性のある情報は効率よく処理されて既存の自己概念が持続されやすくなる。ベネフェクタンスとは、行為の成功に関してはその原因を自分に帰属させ、失敗の責任は回避しようとするセルフ・サーヴィングの傾向である。さらに認知の保守化とは、過去の判断を正当化したり、既存の自己概念を確証しようとする傾向である。スワン(1985)は、人は既存の自己概念と整合性のある服装や化粧・服飾品といったサインやシンボルを表出する傾向のあること、相互作用の相手に既存の自己概念どおりに自分を見てくれる他者を選択する傾向が強いこと、いない場合にはそのように相手に働きかけることを指摘し、自己確証過程という言葉で述べている。しかし否定的な自己概念を持っている人については議論の余地がある。総じて、人間は他者との相互作用を通じて自己概念を形成する一方で、周囲に様々な働きかけを行なうことで、形成された自己概念を維持しているといえる。
自己意識 self-consciousness
自己意識とは、その概念内容は研究者により異なるが、意識の対象・焦点が自分自身にあることをさす。デュバル&ウィックランド(1972)の自覚理論によれば、他者の存在は、自分の容姿や行動、その他の公的な場での自分に注意を向けさせる公的自己意識と、その人だけが直接意識できる記憶や思考、知覚といった私的自己意識に分けられる。公的自己意識の状態になると、他者がどのように評価しているかが気になり、他者に対して特定の印象を与えようとする動機づけが高まり、対人不安を経験する可能性が高くなる。公的自己意識の状態は、自分の身体や行動に他者が注目しているときと、注目の的になるような状況の2つの状況で喚起される。注目の的になると行動の適切さの基準が意識されて高い不安状態になり、観察者に対してよい印象を与えたい動機づけが高まる。しかし現実の行動はこの基準を満たしておらず、不一致を不快に感じる。その不快感を低減するために、自己を客体視させる鏡などを避ける、外部の刺激に集中する、運動を行なうなどの方略を用いて客体的自覚を避けるという。