帰属理論 attribution theory
自己や環境に生起する様々な事象や行動の原因を推論したり(原因帰属)、原因推論を通して行なう自己や他者の内的特性の推論(特性推論)を帰属という。帰属理論の最初の提唱者ともいえるハイダー(1958)は、素朴心理学の立場から日常生活で出会う出来事をどう認知し、どう解釈するかを重視した理論を構築したが、帰属の理論はその中心をなすものであった。人の行動は一般に、努力や意図といった個人の力(内的帰属)や、運や課題の困難さといった環境の力(外的帰属)に原因を求めることができる。しかし、これらは独立に影響するものではなく、行動の結果=f(個人要因、環境要因)の関数関係で表されるとした。それ以後、多くの帰属理論が提唱されたが、領域別にわけると、[1]原因帰属における基礎的推論過程に関する理論、[2]他者認知における特性推論や内的情報の獲得過程としての帰属の理論、[3]自己に関する帰属の理論、[4]
成功と失敗の帰属と動機づけに関する理論などに分けることができる。
[1]の古典的理論であるケリーの共変モデル(1967)や因果図式モデル(1972)は、行動の原因として実体、人、時と様態の3つを挙げ、どれに帰属されるかは、共変原理「行動の結果の原因は結果が生じたときに存在し、生じなかったときには存在しない要因に帰属される」に従うとした。その際、一致性(その行為は他の人の反応と一致しているのか)、弁別性(その行為はその対象に限って起こるのか)、一貫性(その行為はどの状況でも変わらないのか)の三つの基準が用いられ、基準を満たす割合に応じて原因が特定されるとした。このモデルが適用できるのは、実体、人、時/様態に関する豊富な情報がある場合に限られ、ない場合には過去の経験から体系化された抽象的な因果図式が適用される。
[2]では行動の原因がその行為者の内的属性にいかに帰属されるかが検討され、その過程の分析をしたジョーンズ&デービスの対応推論理論(1965)では、行為がその人の属性を反映する程度を示す「対応性」を基に、対応性を規定する要因について言及している。第一に、選択された行為のみに伴う固有の効果の数が少ないほど、対応度の高い推論ができ、かつ一般に行為が望ましいものでない場合には、望ましいものより対応性の高い推論ができるとする。つまりそのような行為は、行為者の独特の内的特性を明確に示すという意味で、情報価が高いといえる。
[3]の代表であるベムの自己知覚理論(1972)では、他者知覚と自己知覚のプロセスの類似性を強調し、自己の内的状態の知覚においても、他者の場合と同様に行動とそれが起こった状況の性質を考慮したうえで推論が行われるのだと主張している。シャクターの情動のニ要因論(1964)は、情動を経験するためには、脈拍や呼吸数の増加といった交感神経系の高まりである生理的喚起と、その原因の解釈を可能にする認知的手がかりのニ要因が必要であるとし、情動の原因を誤って帰属することを、錯誤帰属と呼んだ。
[4]のワイナーらの成功と失敗に関する帰属モデル(1972)では、原因を統制の所在と安定性に分類し、後に統制可能性を加えた三次元から原因帰属の分類を試みている。統制の所在は、原因を内的とみなすか外的とみなすかであり、安定性の次元は変動しやすいかしにくいかの次元である。彼らの理論の特徴は、帰属の規定因を示すだけでなく、帰属の結果がどのような心理的影響を及ぼすかについて言及している点である。つまり、統制の所在は自尊感情に、安定性は次課題の成功や失敗の期待に、統制可能性は罪悪感や恥ずかしさに影響を及ぼし、これらの感情が達成行動への動機付けを決めるとしている。例えば成功を自分の能力の高さに帰属したなら、自尊心や成功期待が高まり、高い達成動機を持つ。
現在の帰属理論は、社会的認知研究の成果を背景にして、対人関係や集団のレベルにも応用されている。