レヴィンの研究
グループ・ダイナミックス group dynamics
グループ・ダイナミクスが最初に使用されたのは1939年のレヴィンらによる「社会的風土に関する研究」という論文の中であり、集団力学と訳される。集団の基本的な性質や、集団と個人、集団と集団の関係についての法則を、実証的な方法によって明らかにしようとする。日本では1949年に日本グループ・ダイナミクス学会が設立され、実験社会心理学研究の刊行などの活動がある。グループ・ダイナミクスの特徴は、(1)理論的に意味のある実証研究の重視、(2)研究対象は、成員間の相互依存性である集団力動性、(3)社会科学全般への広範な関連性、(4)研究成果の社会実践への応用性やアクション・リサーチの強調である。具体的な研究領域として、集団凝集性、集団規範、集団意志決定、集団構造、集団目標、リーダーシップなどが挙げられる。研究方法は実験を基本とする。グループ・ダイナミクスの理論は当初は場理論であったが、現在では認知説やシステム理論など多彩になってきている。
アクション・リサーチ action research
実験研究と実地研究を連結する社会工学的な研究方法で、理論と実践の統合を目的としてK.レヴィンによって創始された。具体的には、(1)変革の対象となる事態の正確な観察と分析を行なって改善目標を設定し、目標達成の方法を検討する計画段階、(2)仮説にしたがって具体的に活動する実践段階、(3)目標達成度を科学的に測定して活動の有効性と仮説の妥当性を検証する評価段階、(4)改善すべき点の修正を行ない、実験研究の知見の有効性を実地研究で確認したり、逆に実地研究で示された知見の理論的妥当性を実験研究で検証する修正段階、(5)目標が達成されたら異なる社会事象にも適用してみて効用と限界を見極める適用段階、という手続きを取る。組織の対人関係改善に有効な方法で、産業場面を中心に活用されてきた。グループ・ダイナミクスは小集団を対象に精密な実験的手法を取り入れて理論研究を行なうが、実験状況が精密になるほど現実の集団状況から遊離しやすくなる問題がある。アクション・リサーチは現代工学から見れば少なからず欠陥があるが、実験と現場をつなぐという理念自体は優れたものとして評価されている。
場 field
場の概念を心理学に導入する上で中心的な役割を果たしたのは、ゲシュタルト心理学者達である。ゲシュタルト心理学では、心理的事象の場はより単純な均衡状態に向かう内在的傾向をもつと仮定され、この原理にしたがって様々な心理的現象が説明されている。K.レヴィン(1935, 1951)は、動機、性格、社会的行動など様々な心理的事象に場の概念を適用した。レヴィンは、人の行動を起動し方向付ける作用をもつ心理的事象の総体を一種の場とみなし、生活空間とよんだ。生活空間は人と環境という相互作用する二つの領域からなっている。生活空間を構成する事象がばらばらに行動を規定するのではなく、それらの相互作用の結果として成立する生活空間の全体的構造が行動を規定する。例えば動機の存在は、関連する生活空間内の事象に接近や回避の行動や心的活動を起動する誘発性を付与する。つまり、生活空間にそのような作用の場が発生する。また複数の動機が存在する場合には、生活空間内の誘発性を持つ事象も複数存在することになり、行動や心的活動は二つの力の均衡点付近でいったりきたりすることになる。
生活空間 life space
もともとはレヴィンの提唱した考え方で、個人がいかにして状況や場によって変わるのかを強調する。個人は仕事や家庭生活など、比較的に自由に行動できるいくつかの領域内で生活し、空間を移動している。これは、物理的のみならず心理的な空間にも当てはまる。その空間に存在する様々な対象はある価値を持っており、主体はそれを得ようとして接近するが、そこで空間内の行動が生じるのである。レヴィンの心理的空間の発想事態はその後発展しなかったが、現在では環境心理学の具体的な物理空間の分析に、心理的な関係を読み取るなどの立場に関係している。