摂食障害 eating disorder ; ED
摂食障害に関しては、DSM-W-TRでは、神経性無食欲症(AN)、神経性大食症(BN)、特定不能の摂食障害(ED-NOS)の三つに分類されている。ANは著しい痩せを特徴とし、BNはその反動として食欲を抑えられなくなり無茶食いを繰り返す状態である。
摂食障害患者の心理特性として、痩せ願望、ボディイメージの障害、肥満恐怖などが挙げられる。根底には、成熟への拒否、自立への抵抗などのアイデンティティ危機があるといわれている。神経生理学的には、食欲をコントロールする視床下部から分泌されるセロトニン、コレシストキニン、レプチンなどが異常値を示し、回復すると正常化することがわかっている。ガーフィンケルによると、アメリカではANの95%が女性であり、致死率は約5%、慢性化する症例は25%であると指摘している。
典型例としては、思春期やそれ以降の女性が、いじめ、受験、就職などのストレッサーの後にダイエットをはじめ、それを契機に発症することが多い。ダイエットが成功すると称賛され達成感がわくが、ある時期から食欲を抑えきれなくなり過食に転じると痩せは普通から太めの体型になる(過食の状態)。「食べたい、でも痩せたい」あまりに自ら嘔吐したり下剤を乱用する患者(BN-P)、そうやって痩せを維持する患者(AN-P)、拒食だけが続く患者(AN-R)などがある。身体症状として、ANは著しいるい痩に伴う症状で、生理が止まる、産毛が伸びる、皮膚の乾燥と毛髪の薄さ、貧血、白血球減少、低血糖、肝機能障害、低蛋白血症や浮腫がある。また心臓の収縮、脳の萎縮、骨粗鬆症や消化器官の吸収能力が衰え、その結果食欲が出ても腹痛、便秘、下痢などの消化器症状のため体重を戻せなくなることがある。BNでは身体症状は顕著ではないが、頻回な嘔吐症例では吐きダコや虫歯の多発、唾液腺の腫れが認められることがある。また嘔吐が酷い症例や下痢・利尿剤を乱用する症例では、低カリウム血症によって筋運動に関与する電解質が不足し、全身倦怠感や脱力感を自覚したり、循環器障害により致死になる場合がある。
治療としては行動制限・経管栄養・経静脈栄養・薬物療法などの身体治療に、心理療法が併用されるが、肝障害・低カリウム血症・意識障害や急速な体重減少例では、生命管理が最優先され、心理療法の適用は栄養状態が比較的よい場合に信頼関係の構築から始められる。治療目標は患者が情緒的に安定し、安定した対人関係や社会適応を維持できるようになることである。身体の回復と共に、痩せていなくても大丈夫、という安心感を得ることが最終目標になるが、心理療法の成果は必ずしも身体症状に反映されない、治療が年単位で長期化する、心理療法と予後の関係が明らかではないという批判がある。