学習障害、注意欠陥・多動性障害(learning disability、attention deficit / hyperactivity disorder)

 学習障害とは、「全般的な知的発達に遅れはないが、特定の認知障害や行動障害を示す病態」である。特に学習面では、読字、書字、算数での障害が多く、教育用語として使用する立場と医学から診断する定義の立場にわかれている。原因として中枢神経系に何らかの機能障害があることが推定されているが、読字困難と発達性失語症、ADHDとの深い関連性からも妥当なものであると考えられた。近年では、微細脳障害の一つとしての学習障害から独立した病態として、DSM-Wで学習障害という用語がはじめて使用されている。この範疇には読字障害・算数障害・書字表出障害・特定不能の学習障害が含まれている。他に、多動の側面に関してADHDの名称が当てられている。
 治療に関して、神経心理学的障害を仮定し、そのプロセス訓練ができれば学習が可能であるという、カーク、クルックシャンク、マイクルバスト、フロスティッグ、エアーズ、ケファートらのアプローチが代表的であるが、ハミル(1972)のプロセス訓練が学習能力の改善に繋がらないとし、遅れのある領域に系統的課題を設定する指導を主張するものや、作業療法がある。しかし学習障害などの治療の失敗は、結果として出てくる学習の不全にアプローチしているからである。学習の基盤となるある基盤の機能不全や遅れが原因となって学習障害が現れるのであって、その機能にアプローチしていかなければ意味がない。現在は病院だけでなく、学校現場での教師による独自教材の作成のような取り組みが盛んになっている。
 注意欠陥多動障害は、DSM-V-Rで使用される疾患名であり、ICD-10では多動性障害と呼ばれている。課題への持続性や集中力が低いという注意の障害と過度に落ち着きがない多動を基本特徴とし、衝動性の亢進や情緒的な不安定、欲求不満の耐性の低さが見られる。こうした注意・多動ないし衝動性の問題が子供の年齢や知能に比べて著しい場合、診断が下される。発症は7歳以前で、広範性発達障害、気分障害、不安障害、統合失調症の診断基準は満たさないが、学習障害と合併することが多く、LDの40%にADHD、ADHDの90%にLDがみられる。男女比は5:1であり、トゥレット症候群と共に男児に多い理由として、背景にある基底核の異常、基底核の性差、右前頭前野線条体システムの機能障害(右淡蒼球と右前頭葉前方領域が小さい)ことがあげられる。他には遺伝的要因も重視されている。治療として、ノルアドレナリン活動の低下から神経興奮剤の投与が効果をあげ、リタリンやペモリンのようなメチルフェニデートが使用される。また、多動・注意といった行動面の変容には行動療法が使用されることもある。