愛着 attachment

 子供と養育者の間に形成される情緒的結びつきを、ボウルヴィ(1969)は愛着と名づけ、刻印づけと同じように人の乳児にも特定対象との近接関係を確立しようとする欲求やパターンが生得的に備わっているとした。知覚能力も運動能力も未熟な幼児が生き延びるには、他の個体から効率的に保護を引き出さなければならない。それを引き出す子供の愛着行動には、微笑や発声などの発信行動、注視や接近などの定位行動、しがみついたり抱きついたりする能動的身体接触行動がある。
 愛着は、飢えや渇きなどの生理的欲求の充足により形成されるわけではない。例えばハーロウ(1958)の実験では、ミルクを与える針金製とミルクを与えない布製の母親の模型を使用してアカゲザルの子供を用いた実験を行なった。子ザルはミルクを飲むとき以外ほとんどを布製の母親模型にしがみついて過ごし、活動拠点として探索行動を行なった。以上の事柄は、生理的欲求の充足より接触の快感の方が愛着の形成に重要であるとしている。また愛着は乳幼児期のみに機能するわけではなく、個体が自立性を獲得した後でも形を変えて存続するという。
 愛着の発達は、ボウルヴィによれば、誰にでも愛着行動を示し、人を区別した行動は見られない第一段階(生後8〜12週)、母親に対する分化した反応が見られるが、母親の不在に対して泣くような行動が見られない第二段階(生後12週〜6ヶ月)、特定の人間に対する愛着が形成され、人見知りや分離不安が顕在化して愛着行動が極めて活発な第三段階(生後6ヶ月〜2歳)、愛着対象との身体的接近を必ずしも必要としなくなる第四段階(3歳頃)を経て発達し、その間に乳幼児期に形成された愛着は次第に内在化されて内的ワーキングモデルとして他の対象へも愛着の対象やイメージを広げていくという。特に第4段階では心の理論の発達が背景にあり、行動や感情が全般的に安定してくる時期である。
 また愛着には様々なパターンが存在しており、愛着の質を測定する方法としてエインズワースら(1978)が開発したストレンジ・シチュエーション法がある。その結果愛着は4タイプに分類され、Aタイプの回避型は、親との分離に対して泣いたり混乱したりすることがほとんどなく、親とは関わりなく行動することが多い。母親の接近に対して回避をしたりする。Bタイプの安定型は、初めての場所でも母親がいることで安心し、活発に探索を行なう。母親がいなくなるとぐずったり泣いたりして母親を盛んに求めるが、母親が戻れば嬉しそうに迎えて再び探索に戻る。Cタイプの抵抗型は、分離に強い不安や抵抗を示し再会時は積極的に接触を求めたりするが、一方で機嫌が直らず抵抗を示すため、アンビバレント群ともよばれる。Dタイプの無秩序型は、A〜Cのいずれにも一貫する行動特性が見られない場合である。
 愛着を形成する要因としては、母親の対応や子供自身の気質などがあるが、ボウルヴィは母親が子供の状態や欲求をどのくらい敏感に察知して適切に対処するかが愛着の質を分けるとした。逆に、子供が不安なときにも対応しなかったり子供からの働きかけとはかみ合わない形で応答していると、子供は母親の行動を予期しにくく安定した愛着の形成は難しくなる。また、子供の気質も愛着の形成に重要であり、もともと怖がりにくい子がA群に多く、もともと怖がりな子供がC群に多いことなどが指摘されている。また生理的なリズムが不安定であれば、母親も対応に困り、愛着の形成も困難になる可能性がある。そして養育者に対して最初に形成される愛着や、親と子の日常の相互作用を通じて自己と他者に関する表象モデルが形成され、親以外との人間関係が作られるという。

 

ストレンジ・シチュエーション法 strange situation procedure

 ボウルヴィの愛着の理論に基づき、エインズワースら(1978)が乳児期の母子間の情緒的結びつきを観察し、測定するために開発した実験法。実験手続きは、満1歳の乳児を実験室に入れ、見知らぬ人に会い、母親と分離させることで子供にストレスを与え、そこでの子供の反応を観察する。このうち分離と再会の場面の反応に基づいてA群、B群、C群の3群に分類される。Aタイプの回避型は、親との分離に対して泣いたり混乱したりすることがほとんどなく、親とは関わりなく行動することが多い。母親の接近に対して回避をしたりする。Bタイプの安定型は、初めての場所でも母親がいることで安心し、活発に探索を行なう。母親がいなくなるとぐずったり泣いたりして母親を盛んに求めるが、母親が戻れば嬉しそうに迎えて再び探索に戻る。Cタイプの抵抗型は、分離に強い不安や抵抗を示し再会時は積極的に接触を求めたりするが、一方で機嫌が直らず抵抗を示すため、アンビバレント群ともよばれる。A群とC群を合わせて不安定群とも呼ぶ。3群間の比率は文化圏によって異なることが示されており、こうした反応は文化的影響が大きいことが示唆されている。

 

分離不安 separation anxiety

 子供が主の養育者から離れることに示す不安反応。反応形態は、後追いやしがみつき、分離の場面で激しく泣いたり抑うつ的になるなどである。また再会した後には、相手に怒りを示すなどもある。分離不安は、生後7,8ヶ月の人見知りの時期に始まり、人の永続性の認知によって一時的な分離は永続的な喪失ではないことが理解される1歳後半にほぼおさまるとされる。養育者との間に安定した愛着が形成されていればあまり強い分離不安は示さないが、愛着が不安定であると強い分離不安を示す。