発達段階と発達課題 developmental task/developmental stage
発達のそれぞれの段階において、到達・達成したり乗り越えるべき課題のことを発達課題という。ハヴィガーストによれば、この発達課題を乗り越えるプロセスこそが発達であると述べており、適切に解決できればその後の発達はうまく進むが、解決できなければ後の段階で多くの発達上の困難に出会うとされる。発達段階は、個体の発達過程がなだらかな連続的変化だけでなく、相互に異質で独自の構造を持つ区分への非連続的な変化が想定される。つまり、発達とは累積加算的な変化ではなく、構造の再体制化や新しい構造への転換という、質的変化の過程である。しかも段階を進むペースや到達段階には遺伝や環境による個体差があるものの、発達順序は必然的に決まっており、段階も普遍的なものとされる。したがって、本来の段階区分は各時期の特徴が並列されるだけでは無意味で、機能間の関連性も示されていなければならず、特に現段階の構造から次の構造がどのように生成されているかの解明が重要である。
現在のところ、各研究者の独自の基準である程度限定された段階が設定されているが、例えば認知発達に関するJ.ピアジェ(1956)、精神分析理論に基づくS.フロイト、フロイトの段階理論を継承し心理社会的危機に注目したE.H.エリクソンの人格発達論が知られている。E.H.エリクソンは、自我の発達を中心に8つの発達段階と発達課題を設定した。そして各段階から次の段階への移行は危機であるため、課題を達成できない場合は適応上の問題が生じるとした。具体的には、@口唇期(乳児期)は、母親との関係の中で基本的信頼感を獲得することが課題であり、失敗すると不信感に特徴付けられた自己を獲得する。A肛門期(3,4歳頃)は、トイレットトレーニングによる諸活動の中で自律を獲得するが、失敗すると恥・疑惑を獲得する。B性器期(5,6歳頃)は、性器の感覚と歩行による活動範囲の拡大に特徴付けられ、自主性の獲得が課題となる。失敗すると、子供は両親への性的関心に対する罪悪感を獲得する。C潜伏期(11,12歳頃)は、学校での様々な活動を通して勤勉性を身につけることが課題であり、失敗した場合には劣等感を抱くようになる。D青年期は、アイデンティティの確立が課題であり、達成には性的同一性や人生観の確立、将来の見とおしをある程度もつことが必要になる。失敗すると同一性拡散の状態に陥る。E成人期初期は、友人や配偶者との親密さを経験することが課題になり、失敗すれば人間関係が表面的で孤独となる。F成人期は、自分の子供や後継者の育成という生殖性の達成が課題であり、失敗すると自己内外の停滞感覚を持つとされる。G成熟期では、それまでの人生を振り返って受容・統合することが課題になり、失敗すると絶望感を抱くという。しかしこれらは、時代や文化によって大きく異なり、比較文化研究からはこのような発達段階は西洋文明圏に特に見られるものであり、西洋圏の影響を比較的受けていない地域では思春期の危機などは見られないことも示されている。
発達加速現象 developmental acceleration
世代が新しくなるにつれ、身体的発達が促進される現象。これには二つの側面があり、身長や体重などの量的側面が加速する現象を成長加速現象、初潮や精通などの性的成熟や質的変化の開始年齢が早期化する現象を成熟前傾現象という。成長加速現象の要因は、栄養状態の変化や生活様式の欧米化、都市化の影響が挙げられる。
生理的早産 physiological premature delivery
一般に、動物は生まれた直後は未熟で動きまわれない就巣性のものと、出生時から成熟して自分の力で移動できる離巣性の2タイプに区別できる。しかしヒトの新生児は感覚器はよく発達しているものの運動能力的に未発達で、見かけ上極めて無力な状態で誕生する。ポルトマンはこれを二次的就巣性と呼び、生理的早産の考え方で説明した。つまり、ヒトは大脳皮質の発達が著しいため、十分な成熟を待って出産すると身体の大きさの問題から難産になる確率が高まる。このため、約1年早く生まれるようになったとされる。