乳幼児の発達 infant

 乳児期全般を通して、子供は時間と空間を秩序化する能力を身につける。知覚的には、新生児でも目の前のものの動きに注目できるが、最初の2ヶ月で動きや周辺視野にきた人への顔の追視ができるようになり、人の顔の学習をする準備機構が整う。また顔の基本的な特徴に注目をはじめ、その後の2、3ヶ月ほどで個別的な認識ができ、物と人が明確な対象になる。また後ろに物体があるのに板が倒れるような不自然な動きに注視時間が長くなるなど、物体が空間上で同じ場を占めることはあり得ないことを理解している。生後6ヶ月くらいまでに手を伸ばして探索活動が始まり、音声に関しては胎児期の終期ではすでに胎外音声を聞き、特に言語音への注意は早期に発達する。生後5ヶ月で座位が取れるため手が自由になり、把握行為の発生から視覚・運動協応が発生しはじめる。生後半年を過ぎた6〜8ヶ月までに、子供は座位から移動することができるようになる。空間が広がると共に身の回りの対象が見るだけでなく手にとって触ることのできるものに変化するため、対象の永続性の課題(一度物を見せた後、隠されたものを探させるオクルージョンの課題)の成績も向上する。また7ヶ月でマニブレーション(口の中にものをいれる)ことで、さらに物を知るようになる。8ヶ月以降になると、周囲の人間と共に第三者を見る共同的空間が成立する。これは共同注意や三項関係と呼ばれ、自分と相手との関係で感情を見直すことができるため感情とは切り離して第三者をとらえることができ、他者への問い合わせ行動のような情動を制御したり分析的に認識することができるようになる。そして生後11ヶ月で大人の真似をはじめ、道具的・機能的行為が発生しはじめて表象形成の前段階に至る。一歳半ぐらいで抽象的なカテゴリーの獲得や出来事の手順の獲得があり、手段と目的の関係が理解される。また、手段をいろいろ分化させて行為の結果に興味を持ち、いろいろな新しい手段をもった行為を反復する。18ヶ月を過ぎると、表象やシンボル機能の発生の時期であり、物事の時間的な順序を獲得するようになる。実際に語の獲得の始まる時期は満一歳であり、一歳代の前半は、シンボル機能が未形成の段階で語の獲得が行われていく。20ヶ月頃の命名期では、子供は事物に名称があることを認識し、名称を頻繁に尋ねることで語彙を急速に増やす命名の爆発が現れる。言語の獲得はチョムスキーによれば、乳児期における様々な前言語的な認知能力の獲得を背景とし、さらに文法獲得の核となる生得的な普遍文法が各国語の特徴に適用されることによる。さらには周囲の大人の語りかけが小さな子供のいいまわしを修正するように働くことも作用している。
 感情は未分化な状態から、発達過程の中で分化していく。古典的知見のブリッジスの分化図式によると、従来新生児には興奮状態しかなく、3ヶ月頃に快・不快、6ヶ月頃に基本的感情へと分化すると考えられてきた。しかし最近の研究では、新生児の段階ですでに嫌悪・興味・満足が表出され、3ヶ月頃までに喜びや悲しみ、驚きが表れ、6ヶ月頃までに怒り、恐れの表情が出現する。この表情は先天盲の乳児でも出現するため、生得的に準備されていると考えられる。また情動による乳児と養育者のコミュニケーションは月齢が上がるほど密になるが、最初は乳児は養育者の情動表出に対してそれと同じような反応をし、情動が伝染するかのように見える。また母親は情動調律とよばれる関わり方をし、乳児の情動表出に対して別の様式でそれと対応した反応を返していく。そのことから、9ヶ月を過ぎると自分の情動は共有されるものであることを理解していくことができる。1歳頃になると感情は安定度を増し、泣いている子供がいても感情の伝染が起きることは少なくなり、逆に相手に触れるような行動が現れ、2歳までにほとんどの子供が慰めるような振る舞いをするようになる。またその頃にはいじわるをすることもあるため、相手の好き嫌いといった内的傾向を把握でき、その知識を使用できることが示されている。