青年期 adolescence
青年期は、人間の発達段階で児童期と成人期の間に位置し、いわば子供から大人への移行期である。この時期では、心身両面の発達が加速され、自我の目覚めや性的発達によって自己の内面への関心が増大し、それまで依存してきた親から独立しようとする心理的離乳の現象が現れてくる。
身体的な面では、思春期のスパートによる身体的な成長と、第二次性徴の発現が見られる。男子の場合、テストステロンの働きが活発化し、体毛や低い声、性器の発達が見られて精通が生じる。女子の場合、エストロゲンやプロゲステロンの分泌が活発化し、丸みを帯びた体つきや性器の発達、月経が始まる。また青年期では、理想主義的傾向と現実への批判的傾向があり、自意識が高まり自己理解が促進される。情緒面では一般に強烈かつ不安定であり、虚栄心や羞恥心、歪曲傾向、激情の持続や情緒の極端な動揺が見られる。人格面では、自我の目覚めやアイデンティティの形成が見られ、シュプランガー(1924)は青年期の心的構造の徴候として、自我の目覚め、生活設計の成立、個々の生活領域への進展を挙げている。またアイデンティティ概念の提唱者であるE.H.エリクソン(1959)は、青年期では自己を正しく理解し、社会的に認められる形で主体的な自分を再構成することが課題となるとした。その後のアイデンティティ研究でマーシア(1966,1980)は、アイデンティティを達成か拡散の2つで見ることは限定的であるとし、危機を経験したかと特定の活動に積極的に傾倒したかの2次元を組み合わせて、4つの類型(同一性達成、早期完了、同一性拡散、モラトリアム)にわけて考えた。同一性達成は、過去に自己の可能性や選択について模索し、それを乗り越えて自分なりの信念に基づいた行動をとるようになっている状態である。早期完了は、過去に模索する機会はなかったが親や社会により認められる価値観を受け入れたタイプである。同一性拡散は、過去の模索経験の結果が明確な信念や行動に結びつかないものであり、モラトリアムは現在模索中で傾倒も明確ではない。これら4タイプを比較すると、一般に達成型やモラトリアム型の心理的成熟度や健康度が高く、同一性拡散型が最も問題とされる。しかしそれは一概に当てはまるわけではなく、達成型が他の型に移行することも少なくはない。また最近では、アイデンティティの形成が、職業、宗教、性役割、政治といった領域ごとに個別に進行することがいわれている。
対人関係においては、両親や教師などの周囲の大人に対する第二反抗期、また友人関係は、心の支えや共通の悩みを共感しあう精神的なつながりを基準として選ぶようになるとされる。生活の大部分は友人との交流を中心に進められるようになり、家族関係の比重は相対的に少なくなる。
さらに、伝統的に青年期は疾風怒濤の時代とされてきたが、それは普遍的ではない。ミード(1928)は、サモア島の女子青年には西欧社会で見られるような青年期の危機がないことを明らかにした。またベネディクト(1938)は、青年期の危機が文化的に条件付けられたものとし、(1)地位・役割、(2)支配−服従関係、(3)性役割の3点の違いが重要であるとしている。また近年では、青年期の危機説自体が疑問視される。大抵は平穏に青年期を通過し、重い苦悩を経験してアイデンティティ確立に至る青年は多数ではない。社会文化の変質から青年期は長くなり、青年期の影響はゆっくりと時間をかけて解決できるからと考えられている。