横断研究と縦断研究 cross-sectional method / longitudinal method

 発達に伴う変化を検討する方法として、横断研究と縦断研究がある。横断研究は、年齢の異なる集団に対して実験や調査を行ない、年齢以外の要因をできる限り統制して各年齢群を比較する。比較的短時間に多くのデータを得ることができ、費用や労力などは少なくてすむ。しかし同一対象者を追跡してはいないため、発達の連続性や安定性を明示することはできない。縦断研究では、同一の対象者を一定期間継続的に追跡し、いくつかの時点で測定を行って変化を検討する。長期にわたって行なうため発達の連続性や安定性を問題にできる反面、労力や費用は大きく、しかも大きな集団を追跡することは困難で、追跡期間の途中でも様々な原因で対象集団がさらに小さくなる可能性が高い。繰り返し測定がなされることで検査に対する慣れや練習効果なども問題になる。また双方共に、結果を解釈する際にはコーホートの要因を無視できない。コーホートとは、ある共通の特性をもつ集団を意味する。横断研究では年齢の違いに加えコーホートの違いが結果に関与するため解釈が難しくなり、縦断研究の場合は特定コーホートのみを追跡しているためどの程度結果を一般化できるかが問題になる。
 一般的に、相対的に負担の少ない横断研究が用いられることが多いが、縦断研究には個人差を検討できる利点があり、データの年齢が近接している場合には追跡が容易であると共に一貫性や変化が具体的で、因果的説明が取りやすい。他方で、同年齢の子供間に高い類似性・共通性が期待できる場合には横断研究が適用しやすい。これら二つの欠点を除くため、横断的に取った標本のいくつかを追跡する方法などが考えられているが、どちらにしろ双方の長所と留意点を踏まえおかなければ、妥当性の少ない研究になるであろう。

 

コーホート cohort

 コーホートとは、ある共通の特性をもつ集団を意味し、一般的には出生コーホートを示す。それ以外には、職業や就職、結婚などがあり、それらのコーホート集団を追跡研究する方法をコーホート研究と呼ぶ。ある継続的な調査を実施する場合、データには年齢効果と時代効果の他にコーホート効果が含まれ、それらの効果を区別しなければならない。年齢効果は、加齢や老化によって成員に共通に生起する影響要因で、時代効果は自然環境や社会環境によって社会全体に及ぶ影響要因である。コーホート効果は、それぞれのコーホートに属する人々に共通に見られる影響要因で、具体的には戦争経験や受験戦争など、コーホート特有の性質による影響要因となる。
 アメリカのシャイエやドイツのバルテスが基礎を築いたコーホート分析では、例えばある出生コーホート集団の時系列的変化を、他の出生コーホート集団の変化と比較・分析することで、年齢効果や時代効果の影響要因を排除しながら双方のコーホート集団の関連を明らかにしようとする。例えば、家族変動、職業経歴、疫学調査などの分野でコーホート分析が用いられる。コーホート研究には、現時点での集団の状況を調査して将来的に追跡調査する前向きコーホート研究と、過去の情報記録を調査して現在までの情報を分析する後向きコーホート研究がある。またそれらを組み合わせた継続コーホート研究、複数コーホートを比較するコーホート間比較研究や一つのコーホートを下位集団にわけ比較するコーホート内比較研究などがある。