性格の理論:特性論と類型論

性格特性論 personality trait theory

 個人が様々な状況の中で一貫して示す行動特徴を特性という。特性論では、一般特性をパーソナリティ構成の単位とみなし、各特性の組合せによって性格を記述しようとする。類型論はドイツを中心に発達し、特性論は因子分析の導入に従いイギリスやアメリカで発達した。特性論では、個人の性格特徴を詳細に読み取ることができ、個人間の相違を比較しやすい。しかしその反面で、人格の統一性や独自性を捉えにくいという欠点がある。さらに、研究者間で基本的特性について必ずしも一致した結果が得られていない。
 R.B.キャッテル(1965)は特性論の代表である。キャッテルの研究では、質問紙や行動観察によって得た諸特性要素の相関を求めて35の表面特性を得、さらにそれらを因子分析によって、回帰性−分裂性、高知能−低知能、精神的健康−精神的不健康、支配性−服従性、利己主義−協調性など12ないし14の根源特性を抽出した。そして各因子は独立な現れ方をするよりも、重なりあって表面的特徴を作り出すとされる。
 近年でのビッグ・ファイブ説(McCrae & Costa, 1990)では、従来の研究で提示された様々な基本特性が整理され、最終的に五つの因子が抽出されている。それは、@ディストレスに対する敏感さを含む「神経症傾向(Neuroticism)」、A社交性や活動性を示す「外向性(Extraversion)」、B想像力や感受性の強さの「開放性(Openness)」、C利他的な度合いを示す「調和性(Agreeableness)」、D自己統制力や達成動機を示す「誠実性(Conscientiousness)」である。

 

性格類型論 personality typology

 パーソナリティをいくつかの要素から構成されるものが特性論であるが、類型論ではパーソナリティを全体的にとらえ、典型的な性格を設定することで性格の理解を容易にしようとする。類型論では、パーソナリティの質的把握や典型的な事例に関する研究を重視し、性格を直感的・全体的に把握することに適しているが、中間型や分類型を無視しやすく本来多様なパーソナリティを固定的に考えやすい欠点がある。類型論の代表的理論は、クレッチマーやシェルドンなどの体質的・生物学的特徴に求める立場と、ユングやシュプランガーなどの心理的特徴に求める立場にわかれる。
 クレッチマーは、特定の体型(細長型、肥満型、闘士型)と精神疾患(統合失調症、躁鬱病、てんかん)の間に関連性を見出した。そしてこのような体型とパーソナリティ傾向の関連性は、健康な人にも当てはめることが可能であるとした。細長型-分裂気質は非社交的、無口、生真面目、用心深さといった特徴と敏感な反面狭量な面を持っている。肥満型-循環気質は善良で社交的であり、明朗で快活な反面寡黙で陰鬱な気分が交互に現れる。闘士型-粘着気質は几帳面で粘り強く、義理堅いという特徴がある。これと類似した体型に関する類型論で、シェルドンは身体の各部を測定して、内胚葉型(やわらかで丸い)、中胚葉型(直線的でがっしりしている)、外胚葉型(細長く貧弱)の体型を求め、それぞれに対応するものとして内臓緊張型(くつろぎ、安楽を好む)、身体緊張型(大胆で活動的)、頭脳緊張型(控えめで過敏)の気質を取り上げている。
 一方ユングは、人の心的エネルギーに注目してその向かう方向を基準とした、外向型と内向型の類型を提唱した。外向型は、関心を外界に向け自分と外界の関係の中で行動するタイプであり、内向型は関心が自分自身の内側に向けられる。さらに精神の主な機能として思考、感情、感覚、直感の4つを考え、これらを組み合わせて8つの類型を考え出している。
 これらの理論の他に、アイゼンクは因子分析を用いて類型学的見方と特性論的見方を統合した性格理論を提出した。性格は一般因子、グループ因子、特殊因子、誤差反応からなる4水準の階層的体制を考え、類型や特性を因子的にとらえている。それによって、外向−内向、神経症傾向、精神病傾向の三次元が互いに独立の次元として存在することが見出された。
 類型論と特性論は対比してとらえられることが多いが、これらは相容れない考え方ではなく、パーソナリティの理解には両者のアプローチの統合が望ましいと考えられている。