ストレス stress

 ストレスとはもともと人や物に影響をする圧力という物理学的用語であったが、その後カナダの生理学者セリエによって「外界のあらゆる要求によってもたらされる身体の非特異的反応」として用いられた。現代では、ストレスを生じさせる圧力をストレッサー、それに対する反応をストレス反応またはストレインと呼ぶことが多い。
 セリエのストレス学説では、汎適応症候群というストレス概念が導入されており、時間と共に警告反応期、抵抗期、疲憊期の3段階を経て進行する。つまり、まずストレッサーが加えられた直後に一時的に抵抗力が低下するショック相があり、そしてストレッサーに対する抵抗力が高まる反ショック相がある。そしてストレッサーに対する抵抗力が正常時を上回って維持され、さらにストレッサーが持続すると抵抗力は低下し、耐えられなくなり様々な適応障害が生じる。この反応が汎適応症候群であり、具体的には副腎皮質の肥大、胸腺・脾臓・リンパ節の萎縮、胃・十二指腸の出血や潰瘍などである。
 さらに1960年代になると、生活ストレス研究を契機としてホームズ&レイ(1967)は、ライフイベントによって引き起こされた変化に再適応するまでの労力が心身の健康状態に影響を及ぼすという考え方に基づき、社会的再適応評定尺度を作成し、個人のストレスレベルを測定しようとした。この尺度では、生活上何らかの変化をもたらす出来事(配偶者の死、結婚、失業など)をストレッサーとして43項目を挙げ、各項目にLCU得点が付与されている。そして過去1年間のLCUの合計が一定基準を超えると、病気になる可能性が高まるとされている。しかしストレスを反応としてみる見方は、個人差やストレスへの対処を無視していることが批判された。
 これに対してラザラス&フォルクマンは、ストレッサーに対する認知的評価とコーピングという個人差要因に注目し、環境と個人との相互作用を強調した。そしてストレッサーの経験から認知的評価、コーピングを経てストレス反応を表出する一連の過程を、ストレスとよんだ。個人が環境からの要求に直面した場合、その出来事が重要で脅威的なことかという評価がされ(一次的評価)、それがコントロールできるかどうか(二次的評価)が、引き起こされる情動の種類や強度を決定する。こうして引き起こされた反応は、それを低減する為の行動であるコーピングを動機付ける。コーピングが有害な評価を低減するように働けばストレス状態は緩和されるが、そうではない場合にストレスは慢性的に持続して、ストレス反応をもたらし心身の健康を損なう可能性を高めることになる。
 また近年では、ソーシャルサポートへの関心が高まっている。これは周囲の他者から受ける援助であり、カプランにより概念化された。ソーシャルサポートには、情緒的支援(信用、話を聞くなど)、評価的支援(他者との比較、フィードバックなど)、情報的支援(助言、情報など)、道具的支援(金、労働、物など)の4つがある。ソーシャルサポート期待の高い個人はストレス反応を表出しにくいことがわかっており、ソーシャルサポートのストレス緩衝効果が確認されている。