遊戯療法 play therapy

 通常の心理療法では言語を媒介として治療が進むが、言語を媒介とすることが困難な子供は遊びを中心として進められる。遊戯療法は、フック-ヘルムート(1921)が子供の問題行動の治療に遊びを取り入れたのがはじめといわれ、1920年代から1930年代にかけて、A.フロイトやM.クラインの精神分析的療法で展開した。その後アクスラインが来談者中心療法を子供に適応したり、D.カルフはローエンフェルトの世界技法を箱庭療法に発展させるなど、様々な展開をしている。大きくは感情転移を重視し精神分析的解釈を行なったM.クライン、治療的人間関係の形成を重視したF.アレン、遊びの治癒力を重視したD.ウィニコットの三つに分かれる。
 遊びそのものに治療的な意義があることはアクスラインやエリクソンをはじめ多くの専門家が指摘しているが、プレイルームで子供を遊ばせておくだけで改善がみられるならば、介在する治療者の価値はない。極論すれば、遊ぶだけでよいならばプレイルームすら必要はない。遊戯療法の場合、遊びの治療的意義だけではなく、介在する治療者の意味、子供と遊びと治療者の関連について検討されなければならない。遊戯療法の対象には、場面緘黙症、不登校、心身症、PTSDなどの神経症圏の子供であり、子供の側の要因と環境側の要因との相互作用によって生じている点では大人と同様である。しかし子供の場合には心身の機能が未分化で自我の発達が不充分であることから、大人とは異なる配慮が必要である。子供を相手にする場合、どの年齢層の子供がどのくらいの遊びをするのか、一人遊びの段階なのか協同遊びの段階まで発達しているのか、傍観的行動が多いのか、言葉がどのくらい使えるのかの発達的視点からとらえておくことや、親の面接、子供のパーソナリティの把握も重要である。子供の問題行動の理解が進むと、遊戯療法の適用が適切か否かの吟味がされ、治療目標が検討される。
 遊戯療法の基本は、学派を問わずアクスラインの8つの基本原理を基本として用いている。8つの原理とは、@治療者は子供と温かく優しい関係を作る、A子供をありのままに受け入れる、B子供との関係に自由な雰囲気を作り感情を自由に表現できるようにする、C子供の感情をいち早く読みとって子供に示し、子供の行動の意味を洞察しやすいようにする、D子供が自分の問題を解決し成長してゆく能力を持っていることを知るようにする、E子供のすることやいう事に口出しをせず自己治癒力を信頼する、F治療はゆっくりしたものであるため早めようとはしない、G子供が現実から遊離しないように必要最低限の制限を加えること、である。
 遊戯療法は一般的に1週間に50分程度のペースで行なわれ、この時間は子供が自由に動ける空間が提供される。セラピストは相当な許容度を持って子供に受容的に接し、子供の主体的な動きを尊重する。そこで子供は「自由な自己表現と守られている確信感」を得ることができるという。そのため、プレイルームは玩具や遊具を備え、攻撃的な遊びに耐えられるように照明やガラスにも耐久性が求められる。また、親面接を同時に進めることが一般的であり、親の面接担当者は、面接の場が親にとって責められる場ではなく治療に参加していける場であることを示す配慮が必要である。親面接の意義は、治療の動機付けに乏しい子供の治療関係の維持、情報の収集と提供、親への心理療法などがある。自閉症児や精神遅滞児に関しては、器質障害説が定着してからは治療効果が乏しいと批判を受けて下火になった時代があったが、心の理論や社会性障害が注目されるようになった1990年代から、再び実施されるようになっている。しかし身体要因についての心理療法の効果は不明確であり、遊戯療法に限らず、今後の課題といわれている。