友に捧げる挽歌
事実は小説より奇なりといいます。いい得て妙というか、かなりの名言というか、わたしはおもしろい言葉だなーと感心しきりであることもしばしばです。 そこまでいかなくても、少しばかり年月を重ねると、人間とんでもないことに遭遇するものでして。 まあ実のところ、ある友人の人生最大級の受難を聞いた話。もう笑ってやることが唯一の救いだとわたしは確信しております。つか、やつの災難にわたしは笑いました。笑うしかありませんでした(T^T)
さて、当時わたしはまだ大学生で、東京で一人暮らしをしていました。そこにある時、郷里からの友人が訪ねてきたのです。 久しぶりに会う友人なので、はじめて東京に来た彼を歓迎する意味もこめて、数人を集めて新宿で飲み会をしました。最初は適当に切り上げて解散する予定だったのですが、そこは若いものの集団、なし崩し的にオールの態勢にはいりました。 で、何人かで新宿をぶらついていたのですが、酒も入って少しハイになっていたのか、彼は道行くおねえさんをナンパしはじめました。 新宿っつーても歌舞伎町です。つか、あんなとこで普通ナンパしませんが、当時の彼は童貞だったのでまあヨシとします。いやとめたんですが、やつはとまりませんでした。
今思えば、意地でもとめなかったのが我々と彼の(特に彼の)間違いでした。
ぶっちゃけ、女に節操なく声かけながらぶーらぶーらしてたら、はぐれるに決まってるんです。つか、げんにはぐれたんです。この大馬鹿者! 終電もありません。やつは東京初めてです。携帯にも出ません。 さすがにヤバイと思って、手分けして歌舞伎町中探し回りました。 もう朝の9時を回ってほんとに警察に行く相談をしていたとき、連れの一人の携帯電話に連絡が入って、やっと合流したのです。彼は真っ青でしたが、まあ見つかって良かったそれじゃあ帰ろうか、ということで家路につきました。 何してたん?という我々の当然の問いに、彼は衝撃の一夜を告白しました。
わたし達とはぐれたことに気づかず、オナゴに声かけてた彼は、ちょっと派手目のおねえさんに声をかけたそうです。ギャル系好きなんですよね、やつは。 しかし、それが間違いの始まりでした。 酔っぱらった彼は声をかけながらそのおねえさんについていってたんですけど、そのうちに
「俺の女になにか用なんか」
と、見るからにコワイお兄さんにからまれたのです。 そうです、お姉さんはアレなお兄さんの女だったわけです。 彼の生涯で最大級の大ピンチであったことでしょう。友人の話によると、ヤクザにしか見えなかったということなので、ヤクザさんという事にしておきます。 ヤクザにからまれた――はっきりいって、真っ青な状況です。 あそこらへんはヤバイと事前に忠告はしていたのですが、チャリの鍵かけなくても盗まれないド田舎もいいところから出てきた彼には実感なかったのでしょう。ですがいきなり最高の恐怖刺激にさらされてプルプルです。 「まあこいや」 と連行されていきました。こうなったらヘビに睨まれたカエルも同様です。内臓まで縮みあがってついていきました。でも行き先はなぜか焼肉店。 いきなりボコられるのかと思ってた彼は拍子抜けです。ヤクザさんは飯をおごってくれて、話も盛り上がります。スゲーいい人だと思ったそうです――オイおまえ、俺が話聞かんとでもいうんかい(←わたしも十分たち悪い?) 勝手にはぐれて勝手に連行されて、なんでかよくわかんないけどヤクザと盛り上がっていた彼・・・・なんかほっといて正解なような気がするのはどうしてでしょう。やくざに悩み相談持ちかけるバカがあるかい。 でもまあ、別に彼に良識がないわけでもなく、ほどなくわたし達と連絡取らなければならないと思って、お暇しようとしました。 するとヤクザ、
「じゃあ話聞いてやったから10万な」
ヤクザというよりただのチンピラです。やることがセコイよ。 実際、おいおい話聞いてやったか10万出せってスゲーな、と思います。しかし、相手がどんなに頭悪そうな筋の通ってない無理難題言ってきたとしても、コワイお兄さんに脅されて10万出さないやついますか?出すよ俺は。 ええ、ヘタレとでもなんとでもいってやってください。その通りです。少なくともわたしなら出します。10万で命買えないもん。 ただ運が悪かったのは、やつは10万も持ってないということでした。青い顔してそのことを告げると、 「ウソつけや」 と怖い顔で迫ってきます。まあ相手の立場からしたらそうかもしれませんが、ないものはないんです。怖いよ、怖いよ! 友人半泣き。必死に財布を見せてアピールします。ってゆーか、ほんとにカラッケツであったことは、わたしが証言しましょう。 銀行にも郵便局にも10万なんて金はないとかで、ほんとぶっ殺されるんじゃないかと思った、と彼は語りました。10万持ってないがためにぶっ殺されたのでは、マジでシャレになりません。ってゆーか、今の状況そのものがシャレになってません。 まあ話はあり金全部巻き上げるという形で決着し(朝ATMが開いてから金下ろすという事になった)、それまで宿に落ち着くことになったそうです。ホテル代はヤクザさん持ちです。
・・・・ラブホでした。あんた金八先生か。
ホテルには、ヤクザさんと友人で一部屋、姐さんで一部屋という組み合わせです。普通なのか普通じゃないのかよく分かりませんが、ヤクザとラブホってこと自体普通じゃないんでどっちでもいいです。 その後ラブホでヤクザがエロビデオ見始めたとか妙なハプニングはありましたが、ATMであり金全部巻き上げられて一件落着になりました。 オマエ東京まで来て何してんだというツッコミは、安堵のため息にかき消されました。 いや、殺されないまでも、腕一本持ってかれたぐらいのことは考えられたんですよ。実は我々もかなりネガティブなこと考えてましたし。無傷で解放されたんだったら、これ以上のことはありません。10万ぐらい、授業料払ったと思えばいいでしょう。 以上が、彼の話の一部始終です。無事でよかったな。
・・・・しかしその晩、わたしの家に泊まっていた彼は「誰にも口外するな」という念押しで重苦しい口を開いたのです。
続く
前回までのあらすじ 東京にはじめてやってきたアゼルの友人。いきなり行方不明になったかと思いきやヤクザの女に声をかけていた!ひえー。 身から出た錆とはいえ恐怖の一夜を過ごした友人と、歌舞伎町を探しまくったアゼルたち。しかし話はまだ終わりそうになくて・・・・
「誰にも口外するなよ」
ヤクザ(たぶんチンピラ)のおっさんとホテルで一夜を過ごす・・・・勘弁してもらいたいシチュエーションです。 普通はおっさんと女の組み合わせなのかもしれませんが、逃げないようにってことなんでしょう。監視せにゃならんようなことするなやとかいうのは表側のムダな意見ですので、この場合役には立ちません。 ところで、ラブホには当然、エロビとか有線がつきものです。わたしも友人達と(普通の)ホテルに泊まったときにワリカンで見た覚えがあります。オナニーは交代で・・・・ゲフッゲフン。 そしておっさんは有線を見始めました。考えることが出張中のサラリーマン並ですが、そんな些細なことはもうどうでもいいです。 画面ではアッハンアッハンいってます。でもとてもオナニーする気分ではありません。AV見て勃たないなんてあんたEDかみたいな勢いですが、となりに強面がいる状態ではいくらなんでも役に立たないでしょう。 社会心理学では、恐怖刺激と相手への好意を混同することがあるなんてアホなことをいってますが(錯語帰属といいます)、おおよこの状況でヤクザを愛せるかい!エロビ見て勃つんかいと主張したいです。ほかならぬ、友のために・・・・彼はEDではありません(T^T) そんな、態度もアソコも縮こまっている我が友。そこまでは、もういままでの話で聞きました。 で、でもですね・・・・エロビ見てるおっさんが、興奮したのか・・・・いきなりズボンを脱いで、ブツを取りだし・・・・
堂々しごきはじめたときたらこりゃお客さん、どないしはりますか!?
あまりのことに声も出ません。羞恥プレイじゃないんですよ?あんた横に男がおるやんけ。少しは気にしろって。 怖いです。さっきとは別の意味で怖いです。人目も気にせず、ヤクザさんはシュッシュッポッポッ人生に突入してしまわれました。ダイナミックなピストン運動に背筋が凍りつかんばかりです。ってゆーかそのまま帰ってこないで下さい。 永遠に続くかと思われたピストン運動も、フィニッシュに近づいてきます。 終着駅到着の時刻になったとき、ヤクザはいいました。
「しゃぶれ」
ブッ!!!!!! しゃぶれって、しゃぶれって、アレをナメナメしなさいってことですよね?ボクにもついてるアレですよね?英国痛苛の1ペニースのことですよね?ぼくの想像間違ってますか!?間違ってませんよね!? つか、それを、それをしゃぶれってか!!ギャー!
「・・・・で、おまえどうしたんだよ」 聞いといてなんですが、一瞬、目の前が暗くなったのはどうしてでしょう。 いえ、失礼しました。わたしの重い気持ちなんてもうどうでもいいです。彼の背負った重苦しい十字架に比べれば。 ああ、一瞬涙を湛えた彼の目を、わたしは生涯忘れることはないです。
「・・・・しゃぶるしかないやろ」
(T^T)
・・・・すまぬ。 聞いたわたしが愚かであった。 そうだよな、しゃぶるしかないよな・・・・うっうぅ。 ああ、アア、嗚呼!うわぁーーーーーん! わたしは友として、それ以上の追求は避けようと思いました。ってゆーか、避けねばならぬ。だって、だって・・・・裂けちゃってるかもしれないじゃないですか。うっうぅ。 重苦しい。すげー重苦しいよこの空気。いったい俺は何をいうべきなんだよこのしゃぶった男に。
これ以上、もう何も聞いてはいけないよアゼルくん・・・・ もう一人の自分が、激しくわたしに語りかけていました。
続く
前回までのあらすじ 街中でナンパしはじめるという大バカたれな行為に対し、歌舞伎町の洗礼はあまりにも大きかった。 人前でオナニーをはじめるヤクザと、そのバカヤクザに命令されてフェラチオせざるを得なかった友人と、その告白を聞くアゼル。あまりの重苦しさにむしろ俺がトラウマ。ってゆーかもうイヤ。
逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ
エヴァ初号機に乗るシンジ君とシンクロ率180%。傷ついた綾波レイを目の前にしてさっさと逃げることなんてできるでしょうか。いいえできません。ってゆーかここ俺の家です。逃げるとこありません。 なんとかそれ以上の追求をすることなく、平和に(しかしギクシャクとした)飲み会は続きました。しかし、さっきからこのフェラチオ男と目が合わせられません。 「なぁ、さっきの話の続きだけどさ」 さっきの話=アレの話です。も、もうやめてくれ、自爆テロは。 あえてこれ以上触れないでおこうと思った新型爆弾を投げつけられる気持ちってのは、想像を絶します。ほんっとイヤ。 しかしですね、みなさんは見捨てられますか?ヤクザに無理やり奉仕させられた男を目の前にして、その人を見捨てられますか!? わたしはすべてを神の手に委ねることにしました。 「分かった。聞くよ」 もう半ばあきらめというか、ヤケっぱちで聞きました。 「単刀直入に聞くけどさ・・・・しゃぶった後、無事に帰ったのか?」
「しゃぶるだけで終わるわけないだろ」
(T^T)
すまぬ。心の準備はできていたが、かける言葉が見つからない。フェラチオの次はイラマチオですかなんてツッコミも浮かぶには浮かぶが、わたしにはできない。で、できないよー。 当時、彼は童貞でした。童貞のまま、処女を、処女をーーーーー!! タ、タシケテクレーーーー! うわあぁぁぁーーーーーーーーん!!
・・・・
・・・・
と、これはわたしの早とちりかもしれません。もしかしたらヤられてないかもしれませんし。もしかしたらしゃぶられただけとかのオチかもしれませんし。オチかもしれませんし! 一縷の望みを托し、残り99%はとどめを刺すつもりで、聞いてやりました。
「じゃ、じゃあ、あの・・・・ヤられた、のか?」 「・・・・・・・・・うん」
(T^T)
オゥノオォッ!ゴッド、ゴッド!ゴッドよーーーーーー!!俺の耳をいますぐ消してくれッ!わたしの方こそ泣きそうだっ。 ある意味アナルセックス。ほんとにある意味で。
まだ痛いですか?
いろんな言葉がぐるぐるとわたしの脳をかけめぐります。そのすべてが不適切!いまのこやつにとどめを刺してしまいそうです。 処女喪失の彼女にかける言葉なら浮かびますが、処女喪失の男にかける言葉なんてわたしは持ってません。ただただ、オゥ、ゴッド! ヤられた上に金取られたんじゃ踏んだり蹴ったりだねーははは〜、なんて雰囲気じゃないです。世界の片隅で広がるアウターゾーン。重い、重いよ。ぼくヤな話聞いちゃってるよ。 あまりの激痛に錯乱しそうです。俺が。 これで彼の話はおしまいです。その後わたしがこいつに犯されたとかのオチもありませんし、彼がアッチの世界に目覚めたとかのイヤな話もありません。それだけは断言しときます。
さて、このように苛酷すぎな体験をした彼も、いまは彼女もできて幸せに暮らしているそうです。えーっと、その話、彼女にはしてないそうですけど(まあその気持ちわかるよ)。 ってゆーかね、こいつのあだ名、しばらくの間フェラーリに決定してたんですよ。排気溝が異様に広がってそうだけど(オエーッ)。 それにね、排気溝といえば、ビバリーヒルズコップなんです。 エディマーフィーが排気溝にバナナ突っ込んでぴこーんぴこーんって。 歌舞伎町のヤクザが排泄溝にチンコ突っ込んでずこーんばこーんって・・・・ごめん、俺の周りこんな奴らしかいないから。 |