臨床心理士指定校を目指す方へ

 指定校を目指す方へ、とは面妖なタイトルですが、あえて臨床心理士を目指す方へとしなかったのは、わたしがいま、修士課程1年の12月で、やっと落ちついてきたという感じの時期だからです。まだフレッシュな気持ちが多くて、でも少し冷静になってきたと自分の感じがあったので、書いてみます。

 ですから、あくまでわたしの個人的な体験と思っていただけると結構だと思います。

 わたしが院試対策で勉強したノートの内容を、心理学にアップロードしました。院試対策ノートと、ヒルガードのサマリーです。

  

  

まず最初に

 まず確認しておきたいことがあります。

 臨床心理士を目指すには、それぞれそれなりの理由があると思います(もちろんわたしにもあります)。

 しかし、目的といえるものは、大学院に入学することでも、臨床心理士になることでも、自分を助けるためでもありません。少なくとも、心理学的視点から患者様を援助することが共通の目的となり得るもので、それ以上でもそれ以下でもないことだと思います。ここを間違えると後で苦労しますし、一番迷惑を蒙るのは患者様であり、クライエント様といえましょう。

 それと一度振り返ってみていただきたいのは、

「本当に臨床心理士になりたいのか」

 ということです。

 もしかして、あなたのなりたいものは臨床心理士ではなく、精神科医かもしれません。作業療法士(OT)かもしれません。言語聴覚士(ST)かもしれません。社会福祉士(MSW)かもしれませんし、精神保健福祉士(PSW)かもしれません。そもそも臨床心理士は国家資格ではないので、現実的には難しいとはいえ、資格がなくても心理臨床に携わることは可能です。

 あなたがやりたいことに応じて、きちんと進路を決めるべきかと思います。単に心理学的視点から、だけでは、ただのエゴイズムでしょう。もう一度おうかがいします。

  

「あなたがやりたいことは何ですか?」

  

臨床心理士への道のり

 上記をクリアーしたものとして、つまり臨床心理士になりたいというものとして、考えたいと思います。ようこそ。少なくとも、遣り甲斐のある仕事だと思います。

 臨床心理士になるためには、現在は臨床心理士資格認定協会の指定する大学院の指定校にいって、修士の学位を取得する必要があります。以前は移行措置として5年以上の臨床経験がある人には受験資格が与えられていましたが、いまから目指す方には関係ないので大学院にいく必要があります。

 指定校には一種と二種がありますが、両者の違いは大まかに言って、教員の臨床心理士有資格者の数と受験資格を与えられるまでの年月が違うだけです(一種は院を出てすぐ、二種はその後1年の臨床経験が必要)。

 臨床心理士指定校はこちら(たくさんあります)。

  

 くわしい受験資格

a. 臨床心理士養成に関する指定大学院、臨床心理学専攻を修了し、所定の要件を充たすもの(修了年度により、その受験資格が異なるので詳細は当該年度の受験要項を必ず参照すること)。
b. 学校教育法に基づく大学院研究科において、心理学を専攻する博士課程前期課程又は修士課程を修了後1年以上の心理臨床経験を有する者。
c. 学校教育法に基づく大学院研究科において、心理学隣接諸科学を専攻する博士課程前期課程又は修士課程を修了後2年以上の心理臨床経験を有する者。
d. 諸外国で上記b又はcのいずれかと同等以上の教育歴及び2年以上の心理臨床経験を有する者。
e. 医師免許取得者で、取得後2年以上の心理臨床経験を有する者。
f. 学校教育法に基づく4年制大学学部において心理学又は心理学隣接諸科学を専攻し卒業後5年以上の心理臨床経験を有する者。

  

※上記bは平成15年3月31日までの修了者、cは平成14年3月31日までの修了者を対象とします。かつ、その方々は平成18年度実施の資格試験まで受験可能です。fは平成12年3月31日までに卒業し、5年以上の心理臨床経験を有している方が対象で、平成17年度実施の資格試験まで受験可能です。eは変更ありません。なお、現行の制度は、漸次大学院指定制に移行します。これにともない、dについては平成18年度以降に変更予定です。

  

 まとめるとこうなります。

  

 指定の大学院に入学し、学位を取得して卒業する。
  ↓
 受験資格が与えられる。
  ↓
 受験!
  ↓
 合格すると、新たな苦行が始まる。

  

  

受験校を選ぶ

 上記の指定校の中から、自分の興味関心に沿って受験校を選んでいきます。

 よろしいでしょうか?

「自分のやりたいことに沿って選ぶ」

 のであって、臨床心理士になりたいからといってどこでもいいわけではありません。

 臨床心理士の指定校だからといって、通常の大学院と何ら変わるところはありません。具体的には、親子関係に興味のある方がそれを専門にしている先生がいないところにいっても、研究できませんよね。自分はこういうテーマで研究しているので、この先生につきたい、ということで選ぶことになるかと思います。大学受験ではないので、指定校だったらどこでもいいや、だとまずいかと。

 それと、以下は必ずしもあてはまるわけではありませんが、あくまで参考程度のことですが。

 国立系はかなり研究重視です。入る前からも、入った後も、激しく研究重視の所が多いです。それに比べて私立系は、どちらかといえば臨床重視といえます。

 これは相対的な問題であって、私立だからといって研究を疎かにしていいわけではないので、あくまで参考程度として。

  

  

研究計画書

 大学院では、通常は研究計画書を提出します。

 学部を卒業している方は卒業論文を書きますので、それを発展させたものでもよろしいでしょうし、また新たなテーマをやりたいならそれでもいいでしょう。ただし、面接でなぜ変えたのかつっこまれます。必然性をもってかえてください。少なくとも、人に説明できないようでは落っことされます。

 社会人の方は、自分の経験に即して問題意識があると思いますので、それを心理学的な意義と関連付けながら研究計画に発展させていけるでしょう。

 上記を逆にいいますと、それができないと話になりませんってことです。まあ、マジメに卒論を書いていればそういう実力はついているはずですので、細かいことを気に病むよりも、自分のやりたいことを説得的に展開できることを心がければ大丈夫です。

 つまり、自分の問題意識がどのような方向性を向いているか、それについて過去にどのような研究がなされていて、どのような研究の位置づけにあって、どのような意義があるか、どのような方法論で行うか、それが研究計画です。

 気をつけていただきたいですが、患者様やクライエントさんを被験者にした研究計画は、修士レベルでは非現実的です。現在は守秘義務が非常に厳しくなっているので、病院などで患者様を被験者にした修士論文はまず書けません。そういうことを理解した上で、現実的な研究計画を立てなければやはり落っことされるかと思います。

 興味があるのはわかります。ただ、仮にも心理屋になろうと思ったその理由の中に、少しでも功利的なものがあるのであれば、それを自覚するべきです。少なくとも、自分の興味だけでなく、はたして実際にクライエント様の実利になるものかどうかをお考え下さい。臨床家である以上、研究には臨床的意義がなければ意味がないのです。

  

  

受験勉強

 受験勉強の前に、志望校の過去問を取り寄せましょう。どんな出題傾向にあって、どんな解答形式なのかを分析すると、問題がときやすくなります。ちなみに、結構解答できないものなので、相当凹みます。自分の勉強の進行具合の確認にも使えるでしょう。

 まずは英語です。

 臨床心理学系の人特有ですが、卒業論文を作成する時に読む論文はほとんどが日本語論文ですね。実験系から見たら信じられません。わたしもそんなに英語が得意な方ではありませんが、大学入試じゃあるまいし、英文大意を掴む練習は学部時代にやっておいて損はないです。

 ゼミ論、卒論、院試はその絶好の機会だと思います。自主ゼミでもなんでも作って、英語文献の輪読会をすることをオススメします(ヒルガードのIntroduction to Psychologyがよく読まれているみたいですね)。これさえやっておけば、特別に英語を勉強する必要はないでしょう。上智や国立系のようなよっぽど外国語が難しい大学院なら別ですが。

  

 次は専門分野です。

 志望校に合わせた勉強は必要ですが、出題形式は変わることがあるので、できれば心理学全分野に渡って「かなり詳しく」勉強する方がいいでしょう。概論書やら〜心理学とかの本やら辞書やらをつきあわせて、ひたすら自分のノートを作る作業になるでしょう。相当頑張りが必要です。

 相当ってどれくらいかといいますと、わたしは仕事をやめてプーとして半年勉強しましたので(余談ですが精神的に地獄を見ました)、一日5時間とか6時間とかやってたような記憶があります。一人で勉強するのは……という人は、勉強仲間を作るのも手です。

 ちょっと余談なのですが、地方の私立大学には、臨床心理学や発達心理学しか設問にでない信じられないところがあります。これは私見ですが、そんなところはやめておいた方がいいです。学生時代から偏った勉強しない方がいいです。

 理由として、臨床心理士に求められる知識の広汎性が挙げられます。臨床心理学は治療理論という少なくとも役に立たなければならない領域ですが、あくまで基礎心理学に立脚して成立しているとお考え下さい。臨床心理学は基礎心理学として成立するとか、臨床心理士だから脳や認知のことは知らないとか、とんでもありません。臨床心理士を目指している方は、心理学全般や医学、社会福祉学をよく学んで、臨床心理士におなりになるべきです。

  

  

面接

「面接で聞かれることは何か?」
「NGワードは?」

 これは最も気になることの一つだと思います。

 まず研究計画。これは必ず聞かれます。何を・どのような方法で・どのような被験者群で・どういう分析で・どのような仮説を立てているか――これを説明できればOKです。「変わるかもしれませんけど」なんて余計な一言は言わなくていいです。すぐ変わりますから。

 志望動機も聞かれることが多いです。社会人ですと自分の職種と関連付けるでしょうし、学部からですとそれなりの理由があるはずです。ちなみに、資格を取りたい、っていうのはNGと思って下さい。そもそも目的は臨床心理士になることではなく、今後何をするかですので。修士を出た後どうするのか、就職したいのか、博士課程後期に進みたいのか、とりあえずで結構ですのでビジョンを持っておくのもいいと思います。

 また、卒業論文の内容と研究計画の内容が違うと、なぜ違うのかも聞かれるかと思います。違う理由があると思いますので、それを納得できる形で説明できるようにしておきます。浪人している方は、その間勉強と読書以外何をしていたかを聞かれることもあるようです。

 いっちゃいけないことは、そこの先生の研究を否定するような発言です。例えば、精神分析が嫌いだからといって、精神分析が嫌いですあんなの科学じゃありません、なんてのは批判とはいいません。治療理論への批判は治療成績の実証性に関係するべきであって、それに関係しない論理上・数理上の批判は、統計を使っただけでむしろ妥当性を欠きます。思い込みに基づいているものを批判的意見だと思ってしまいがちですが、論外です。ごめんなさい。昔こんな態度を取ってたことがありました。

 それ以前の問題として、まだ院生などではそんな立場にありませんので、広く学ぶ姿勢をアピールして下さい。よく知らないことをいうのもまずいでしょう。わからないことをきちんとわかっていると自覚していることも大事なことです。

 大学教員は百戦錬磨の心理学のプロです。あなたが臨床家としてこれからやっていけるのか、ということも見ています。「どんな答えをいえばいいのか?」なんてイイコになろうとしない方がいいです。この先通用しません。できる限り早いうちに「自分の答えを主張できる力」を養う方がよいかと思います。

  

  

最後に

 手前味噌で恐縮ですが、臨床心理学は学ぶ価値が大変高い学問であると思います。それと同時に、それ単体では何の役にも立たないこともまた事実です。わたしは神経心理学やリハビリテーションが専門ですが、勉強している分野をあえてわけるとすると、神経心理学、臨床心理学、認知心理学、神経生理学、発達心理学、人格心理学、医学、リハビリテーション学、運動学など、役に立つと思うものはできるうちに何でも摂取する勢いでやることがいいかと思います。ようはこのなかで、何をプロパーにしていくかということです。

 また、自分をちゃんと知ることが大事だということも、段々実感しはじめていくことと思います。自分の病理的な部分であるとか、共感性の低さとか、それを防衛するスタイルであるだとか、毎日教えられることばかりです。つらいこともたくさんあります。

 それでもやはり、Here and Nowで動いているものがわたしの中にもあります。みなさんの中にもあるはずです。

 そのことが、いつか、自分を助けて、他者を助けて、他者の助けもありがたく受けることができるようになることにつながることを祈っています。

  

※さらに勝手に紹介させていただくので恐縮ですが、こちらのホームページでは、より大きな規模でやっているので、参考にしてみて下さい。

 臨床心理士になりたい人のためのサイト