6月29日

 前回:Laveのセオリー

 学習:知識の獲得ではなく、社会的システムの中である役割を担っていくこと(担っていくためには、技術・知識が必要であり、他人に認められるということ)
  ↓方法論も変わる
実験→フィールドワーク(こうすることで、現場と研究者の間での意味のある議論ができるようになった)

実験 フィールドワーク
クリアーかつシンプル。一対一対応のラベル付け。複雑な状態をなるべく圧縮する。 学習者を中心とした諸関係の、詳細な記述:分厚く、膨大な情報量
系統的発想 着眼点 極めて複雑な社会状況を、形式的に一貫して記述する

 LPPの問題点

・複数の実践共同体の問題を扱えない
 一方では、グループの中で均質的なSocial identityが形成されているが、他方では極めてパーソナルな問題が構成されている。一つの実践共同体に参加する学習者だけでは、学習者が限りなく均質化されて、厚みのある学習者の記述にはならない。
→transfer概念が扱えない(複数の文化やコミュニティーの間を移動する学習者が扱えない。現実の学習場面の複雑性を説明する必要がある)

 具体的な実践共同体と、localな個人との関係性をどれくらい密にできるかを言わなければならない(すべて実践共同体だといったら、何も説明していないのと同じ)
→Wenger(Laveの共同研究者)

 正統的周辺参加論の展開――Wenger, 1999を中心として

Lave&Wenger, 1991から
 Lave……伝統的場面中心
     一つのきっちりしたコミュニティーの中での学習
 Wenger……現代的・先端的なlocalな実践共同体(EX.保険会社の研究)のフィールドワーク
       複数の実践共同体への関心

 実践共同体内部における重層化

→隙間共同体(interstitial communities of practice)
 LPPのように、一つの実践共同体を伝統的場面のようにモノカルチャーとしてみると、極めて複雑に入り組んだ学習場面を見る時に、非常に単層的なidentity(一つの実践共同体に一つのアイデンティティ)というような、薄っぺらい議論しかできなくなる。
 →実践共同体の内部に、サブカルチャー的な実践共同体が、公式のものとは別にたくさんできる(隙間共同体)
EX.教室の仲間集団(教師と生徒の関係だけでなく、友達集団もある)
  社内のうわさネットワーク

隙間共同体は、オフィシャルなものとの関係性の中で定義されてくる
 ↓その作用として、
identity of non-participationの発見

EX.保険の請求業務
 仕事としては複雑だが、基本的にはルーティンワーク
→仕事の複雑さの内容がどうしてそうなっているかが、よく分からない。
 →機能を上げれば上げるほど、会社から離れてくる感覚が形成される。
 深く参加しているにもかかわらず、本人たちのアイデンティティはコンテクストと離れている部分で作られている(参加していないというアイデンティティが参加によって作られる)
→一つの隙間共同体が作られる
 会社全体の実践の構造に対する反応として、二次的に作られている実践共同体

 Wengerは、複数の実践共同体を、一個の実践共同体の中のサブカルチャーとして記述することで、Lave流のよりもはるかに微妙で複雑な当事者たちの学習プロセスを記述した(実践共同体内部でのプロセスを複雑化した)

・多重成員性(multimenbership)
Wenger『Communities of Practice』1999.
 一人の人間は、多数の実践共同体に同時に参加している。

 

 ・本人は、複数の関係の中の結び目
  →諸成員性間の結節nexus
 ・多様な実践共同体の中に、同時参加することでメンバーシップをつくると同時に、そこで生じる緊張関係をどうに かしなければならない
  →諸成員性間の調停reconciliation

 それでは、誰が調停をするのか
→調停者=学習者
 →結局は、学習主体は故人ということになる。
  ↓But
 もともと、LPPは、学習は、個人の営みとか努力の問題ではなく、社会的関係性の問題であるということでインパクトを持った理論。
→複数の実践共同体でものを考えはじめた途端、学習の最終責任が個人にもどってしまった(統覚的意味構築者(認知主体)としての学習者の再到来)
 →社会空間的拡張戦略の本質的な困難さ

 LPPの問題点への展望と期待

Hodges, 1998
 幼児教育教員養成カリキュラムへの、自らの参加体験の分析
カリキュラム自体が、極めてフェミニン的イメージで、異和感があり、女性性、母性を要求するカルチャーが、カリキュラムの随所にある。
  ↓
Laveの拡張
  ↓
「周辺性peripherality」と「周縁性marginality」の区別
→周辺性……その実践共同体内部でよしとされるものへのプロセス
 周縁性……実践共同体と学習者が相容れない絶対的距離
        life historyと深く関連している
  ↓
 絶対的距離を保ったまま、周辺性を縮めていくしかない。
  ↓
 実践共同体における、学習者の状態を、役割性と固有名性の二つのフェーズに分けた(いままで役割性しか見られていなかった)

 社会空間的拡張戦略に関する問題提起が、Hodgesの議論に含まれている。
→時間のファクターが含まれておらず、空間的配置だけ
 →複数の実践共同体の問題を考える時には、空間的にそれを配置してその関係を論じてもだめで、空間的に構造化するシステムの作動の原理と、それと直交する個人のライフヒストリーの構造化の原理の交差する空間に参加が生まれる。
 時間的に発達するシステムとしての、個的なプロセスとし、それからstaticに空間的に定義されるような、時間的なものと空間的なものの直交する部分に参加するという概念が生まれる。

 

次回:ユーリ・エングストローム