7月13日

 いままで見てきた、状況的認知アプローチの先端の議論でも、移動と学習の問題をとらえることは容易ではない。

 前回までの議論

 活動理論の基礎的な議論

 もともと、ヴィゴツキーの三角形の行為モデル
 社会の中で作り上げられてきた言語を中心とした記号系を重視して、単に行為が対象に向かうのではなく、記号との関わり合いの中で行為が形成されているのが重要であると見る。さらにその記号は、自然的産物ではなく、歴史的社会的に人間の関わり合いの中で形成されている。
 →心理学還元主義(脳科学と社会科学で、人間の意識的な活動などは解明できる)と、対抗。
  →人それぞれが持っている個人の経験世界を外すわけにはいかない。生物としての人間と社会的システムの記号がであったとき、ここの人間の具体的な意識が発生してくると、ヴィゴツキーは考えた。
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1930年代の、スターリニズム
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レオンチェフの、古典的活動理論
 人間は目的的に対象に向かい、その時に記号が有効に働く(←ヴィゴツキーは、記号と主体が出会うことによって、意識や意図が生まれると考えた)
 レオンチェフが考えた、人間の社会性
人間は、動機があって対象に向かうが、人間は、もともと集団活動をするものである。しかし、全員が一つの目標(対象)に向かうわけではない。
 →分業の概念
 分業自体は、直接の目標が異なるが(行為)、全体的には一つの目標に向かっている。そして、それぞれの達成のための技能を、操作とレオンチェフはよんだ。
 活動−行為−操作の三重構造で、人間の活動ができている。
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1980年代に、個の認知を越えたレベルの広いコンテクストを視野に入れたことが必要だということがはやったが、現実を分析するためのツールは整っていなかった。そのため、行われたことは哲学的論争に終始して、実際の場面での人間の行為などの実験では、それほど有効ではなかった。
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Y.Engstromへ(活動理論の第三世代)

 現実的な、社会的な場面で生活する人々の行為を分析できるようなツールを、「実際に使える」ものとして作り上げた。learning by expansion拡張による学習(エングストロームの博士論文)
『拡張による学習』新曜社

 強調点

・分析単位としての集団的活動
 レオンチェフは、個人に重点を置いているが、活動のシステムが可能となっているような、分業のレベル自体を見なければならない。
 ヴィゴツキーの三角形は、個人の精神発達の理論であったが、それを人々が、自分たちの所有している道具や記号を使って対象に向かっていくことであるととらえなおした→三角形自体の主体を、個人から集団へ変更した。

・集団の構造は常に変化する
 もともとは、変革の可能性と危機(最近接発達領域)の微妙なバランスの上で成り立っている。
※最近接発達領域……もともとはヴィゴツキーがいったことで、発達はピアジェがいったように一定のものではなく、他者とどう関わってくるかで変わってくる。
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 集団の最近接発達領域
人はなぜ変わるのか、学習するのか
 システムは、内在的な矛盾を常にはらんでいて、変化の可能性を含む(最近接発達領域にある)。エングストロームは、この概念を変化とは、個々が変化するのではなく、社会システムが変わることであると展開。社会集団自体がどう変わっていくのかに焦点をおいた。
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 システムの変化と個人の関係は、LPPのようにシステムに適応すればするほど、組織の問題点や矛盾点が見えてくるまでは、学習の前提条件。その矛盾に関わって、システムが変革しうることを理解し、それを実行していくことが学習の本質である。

個々の感じる矛盾の可能性を、集団で共有
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自分たちの置かれている矛盾を、客観的に理解するためのツールを生産
  ↓ 方向性が見えてきて、実行
システムややり方が変わる
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自分たちのやり方が変わる

→この一連のプロセスを、拡張による学習といった。知識や技術を身につけるだけでなく、システムが変わる意図的なプロセスが、学習である。

古典的な学習モデル
  ↓ 正しい知識を生産し、伝達する(学校など)
状況的アプローチ(LPPなど)
  ↓ 正さや有能さは、状況ごとに異なる。現場に順応していくプロセスが学習。
エングストローム
 自分たちの在り方を変えるために、知識や技術を身につけ、実際のシステムの在り方を変えていく(結果的に、自分たちのあり方が変わる)。特に、介入という視点で、当事者たちが自分たちの学習を見えるようにしていくための、学習を記述するツールを作成した(実際に変えることと研究することを、同時展開した)

 エングストロームの問題点

システムは変えることができるということが前提で、実際に変わった事例を分析している。
→強力に制度化されて変化しないものの事例や学習をとらえられない。なかなかシステムが動かない中で、個人が学習していく事例、異文化の問題や、権力的状況における学習の問題。
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異なる状況と交渉するには、どうすればいいのか。
 ノット・ワーキング
→しかし、どちらにしろ、集団に重点をおく学習理論で、個のあり方がうまく扱えない。
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では、具体的な個を、社会ときれないようにとらえていくにはどうすればいいのか
 →ヴィゴツキーへ

 

後期:ヴィゴツキーの理論